第2話 支倉 結衣


「久しぶりに話をするね」


僕は何も言葉が出なかった。

謝ることもできず、ただ逃げ出したかった。



「でも昨日も一緒だったから……。そうね、話してないだけでずっと一緒だったかな」


何を言っているのかよくわからない。



「隼斗におはようっていって、夜になったら隼斗が寝静まって、カーテンの向こうからおやすみっていうまでずっと一緒だったから、私の方が清川なんかよりはずっと長く一緒にいたよ」


「何を、いってるんだ…?」


「大学も毎日来て、隼斗をずっと見てたし、どこへ行くのもずっと見てた。隼斗はいつかいってくれたでしょ? “ずっとそばにいてもいい”って」


そんなことも言ったかもしれない。

支倉が不安がっていたから助けたいと思って、僕は安易にそんなことをいってしまっていたかもしれない。



「いや……、それは……」


言葉に詰まって沈黙が流れた。

けたたましいセミの鳴き声も、遠のいた気がした。どこまでもついてくる。


これってストーカーではないか?



どれだけの時間が経っただろう。支倉はそれ以上のことは言わない。僕はかろうじて言葉を紡げた。



「何で今さら……」


「就活の時期でしょ?遠くに行かれたら困るから。だって、私はずっと隼斗のそばにいないと生きていけない。この世界は地獄だけれど、そう易々と死ぬことはできない。だから生きていくためにはどうしても隼人が必要なの」


「就活は……、ほとんど何もしてない」


「ふふっ、そうだよね。知ってるよ。でも、誘われて、無理やりさせられているんでしょ?」



支倉は笑顔だし、さも当たり前の会話をしているかのようだった。おそらく就職先を決めるまでに先手を打とうと支倉は姿を現したのだ。


ずっと観察している、いや、もしかして閉めっぱなしのカーテンの向こうにずっと立っていたのかもしれない……。


ふと、うしろから声が聞こえた。



「隼斗?」



僕は振り返り、ほっとした。そこにいたのは清川彩音だった。


今の彼女の彩音はとても優しくしてくれたし、彼女といる時間はどこまでも心地よかった。ただ、何か籠絡ろうらくされているようなそんな焦燥は少しばかりあった。


「いつまで待たせるの? 私はずっと就職課で待ってたのよ。こんな時期の1時間はとても大事で――」



就職課で落ち合う約束はしていた。さっきからスマホが何度も鳴っていたが、支倉に気圧されてスマホを取り出せないでいた。


僕は縋るように彩音を見た。


彼女はスーツ姿で、今日はもうすでに企業に行ってきたらしい。彩音は就活解禁前から抜け穴を探し、ただのインターンシップをするだけでなく、企業側の懐に飛び込んで何やら策を弄しているらしい。


いまだにレポートをだらだら書いているだけの僕とは大違いだった。

彩音が僕と付き合っているのは「面倒見ていないとどうしようもなさそうだから」らしい。

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