ベリーウェルダンの雛たち

秋鹿

第1話 そのカギはどこのカギ?


 手を伸ばした宝石箱から何かがこぼれて、ジャラジャラと床に落ちてしまった。


「カギだ……!」

 

 兄のミラーが下から声を上げる。


 カーペットの上に落ちたのは、大量のカギの束だった。


「待って、ミラー! 今そっちに行くから、それに触らないで」


 脚立の上から少女が叫ぶ。


 彼女――アイラ・リシャールは、焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりと一歩ずつ脚立を降りていった。


 一年前に亡くなった父親の書斎。


 古くて大きな本棚の上に、宝石箱が隠されていた。


 それを初めに発見したのは兄のミラーだったが、実際に登って取ったのは妹のアイラだ。


 だが予想外に脚立が短くて、宝石箱には手の先がやっと届くほどだった。

 むりやり箱をつかもうとしたところ、フタがひっくり返って中身が落ちたのである。


 兄のミラーは妹とは違い、基本的に臆病だ。


 しかし床に落ちたカギの束をすぐに拾って、ためつすがめつ、それを凝視した。


「まだ触らないでって言ったのに」


 床に降りたアイラは駆け寄って、彼の手を強く払う。

 カギはまた床に落ちた。


「毒が塗られてるかもしれないでしょう?」


 彼女はそう諭したが、さすがに毒はないだろうとミラーは思った。けれど妹に怒鳴られたくないので、再びカギを拾うことはやめた。


「ちょっと待ってて」とアイラは走って、部屋を出て行く。


 一分ほどしたのち、両手にキッチン用のゴム手袋をはめた彼女が戻ってきた。


「サビとか、バイ菌とか怖いでしょ」


 そう言って床にかがみ、カギの束を手に取る妹。


 それを目線の高さに持ち上げると、二人はしばらくじっと、それを観察してみた。


「……宝のカギかもしれない」


 ミラーの声は興奮していた。


 たくさんのカギが連なる束は重く、ずっしりとしていた。


 数えると、なんと十五個もある。


「一体どこのカギかしら。大きさからすると扉のカギっぽいけど」


 ミラーとアイラが住むこの家は確かに大きい。が、開かない部屋となるとさほども無い。


 だいたい家中のカギは普段、二人の母親が管理している――。


「あんな高い本棚に隠されてたってことは、いつもは知らない場所のカギってことじゃない? 開かなくても困らないような」


 と、ミラーはカギを手に取る。

 アイラは今度は止めなかった。


 カギは古そうだがみんな似たような形状で、先端は片側のみにギザギザがあった。


「これを使う部屋を探してみようよ」と兄が切り出した。


 




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