エッセイ・宝くじを買いますか?

柴田 康美

第1話 宝くじ売り場のおはなし

 みなさんは宝くじを買われたことがありますか?あたいは年末ジャンボだけ買うぅ、ぼくは売りに出されれば毎月買うんだぜぃ、という方から、オレはくじがなくちゃ生きちゃいけねぇーというアゲアゲのとーさんまで、わたしゃいつもそこらでかうだに、とおばさんの遠州弁まで出ちゃいます。とにかくこんなにもいろんなユーザーさんがいらっしゃいます。とくにこの新しい年にはふだんくじを買わないでスルーという方も売り場に向かいどこのチャンスセンターも賑わいます。ネットでもかんたに買えるのですが近所の店舗へ行きあれこれ言って買いたいのですね。

 

 わたしが買うとすれば家の近くにあるスーパーの前に置かれた売り場で買います。ほんとうのことをいうと行きたくないし買いたくない。いままで当たったためしがない。じゃあなんのために。もしかしたら当たるかもの期待でハンドルを握ると自然に南へ走っているのです。いついっても駐車場が混まなくて買うのにはとても便利です。


 いつものようにいつもの気軽な売り場に行きました。すると、もうたいへんなことになってました。

 

 現場の実況です。あぁ、イ、イ、イヌが、イヌが暴れています。シバ犬とプードルの混血種らしい。やたら行動が荒い。今、今、人に噛みつこうとしています。尻尾を激しく振って。 飼い主の周りを回っています。売り場へは誰も寄りつけません。大混乱です。吠えています。しばらく散歩させなかったからでしょうか。欲求不満だったんでしょうか。禁欲していたのは理解します。でもこの場所ではどうぞお静かに。なんて諭してもお構いなくワンワン。なぜ?なぜか?分かりません。飼い主のおばーさんにはとても手に負えません。興奮しています。大暴れです。見境無くひとに向かってきます。突進。危険です。噛みつきそうです。売り場前にはだれも近寄りません。遠巻きにして成り行きを見守っています。たまりかねて売り場横の細いドアを開け売り場の女性が中から飛びでてきました。びっくりするくらいの大声で「なにしてんですか!困ります!イヌをどっかへつれてってください」それでもリードを固く握った飼い主は「くじをくじをくじをください」とまだくじを買おうとしています。買いたい執念の弱々しくも抗議の連呼です。イヌは吠え続けている。騒々しいなあー。ほんとに。


 ざっとこんな具合です。


 またある時はくじを10枚買ったおじいさん。支払いに巾着袋からじゃらじゃ大量の硬貨を出した。たちまち売り場のカウンターの上のトレイはおカネでてんこ盛りになった。計算機はないから手で数えている。1円玉、5円、10円などもいっぱい混じっている。「おい、早くして、急いでんだから」近くの工事現場からきたらしいお客からの声。きょうは珍しく長く行列している。「ほんと、めいわくだよ」ぶつぶついう後ろの客。硬貨のおじさん「しょうがないそう言われても。いまこれしかもってないんだから。銀行へ行けば両替に銭をとられるし」


 またある時は売り場の女性と長々と世間話をする女の人がいた。いつまでもはなしこんでいる。ふたりはぼくというお客をすっかり忘れているようだ。そんなに熱をいれて話をすることがあるのかい。こちらはナンバーズ3の用紙に番号を記入して用意万端おこたりなく指につまんでひらひら持って待っている。いつまで待てばいいのかな。巨頭会談は一向に終わりそうもないので後で買うことにして一旦くじ売り場から離れる。スーパーへ入って小さな書店で週刊文春を立ち読み。何時間読んでても書店の店員さんは来ない。全然来ない。通路を隔てたすぐ近くに無料休憩所がある。そこには簡単な食事の自販機もある。強猛者はカレー食べてそこのテーブルで書店の本読んでからまた書棚に返している。作家&書店&販売店の方々切にお許しください。ぼくが知らないどこかの人がやっていることですから。


 またある時はもっと上手がいた。くじの代金をマケテくれと言ってゴネているじーさんがいる。安くなるわけないでしょう。公営のものなんだから。どう考えても。前のときは安かったといい張っている。そんなとってつけたようなウソを聞いているヒマはない。売り場の女性は苦笑いで困った顔をしてこっちをチラ見する。常連なんだねこのじーさん。売り場のひとは上得意様にきつく言えないらしい。どうやら昼日中からワンカップを手に飲んで酔っぱらっているようだった。ご本人はいい気持ちかもしれないがみんなつまらないゴネなんか聞きたくもないよ。くじを買うなら買う、酒を飲むなら飲む。どっちか別々に分けてくれ。酒を飲むカネがあるくらいならくじの代金なんかサッと払えるでしょうが。からむのなら家へ帰ってばーさんへどうぞお願いします。


 あと友人の話ですが売り場の女性店員で接客態度がとても悪いひとがたまにいるそうです。なぜか大きなチャンスセンターと名がつく売り場に多いとのこと。べつに調べたわけではないのですが。「連番で10万台のを10枚綴りください」と友人が注文したらちェと舌打ちしてカウンターに放り出してありがとうの一言もなかったそうです。なにか虫のいどころが悪かったのでしょうか。男にふられたのでしょうか。話を聞いただけでこっちが舌打ちしたくなります。こんなところで買ったらただでさえ当たらないくじが余計に当たらなくなりそうです。くわばらくわばら。

 

 あらためて言うこともないのですがほんとにいろいろな人がいますね。感心いたします。生い立ちやその後の環境こそ違ってもなぜこうおなじことへの対応や感じ方が個々に違ってくるのか不思議です。




   


                (了)

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