まちぼうけ(ココア共和国2024年1月号電子版掲載「佳作II」)

ぼくは自転車のカギを、また失くしちゃって


だから、歩いてきたよ、ここは深夜の公園で


だから、歩いていくよ、ひとりぼっちで


きみは自転車のカギを、また失くしちゃって


だから、普段よらない公園に、ぶらりと入った。


赤いおもちゃのスコップがひとつ


ベンチにぽつんと座っていて


あしたきっとだれかが迎えに来るに違いないから


ぼくは邪魔しないと決めて、


かわりにブランコの柵に腰をおろした。


柵は細くて、ちょっとお尻が痛くって


ベンチと砂場と、ブランコを挟んで入口で


ブランコから出口でジャングルジム


柵は細くて、上に立つには危なげで


でも綱渡りにはいい練習。


あの日あの頃、ぼくたちは、


このざらついた棒にスカートをくるくる巻き付けて


さびさびにして叱られたっけ。


ぼくは自転車のカギを失くしちゃって


だから疲れて寄り道して


入口と出口の境目で さび付いた心を休めてる


赤と青のブランコが揺れている


あの日あの頃、吹いた風、


小さかったぼくたちに、あの風は


やさしく吹いていたはずだ。


桜の向こうの夜空には、まんまるの街灯がともって


月明かりを演じてる。




※月刊ココア共和国 2024年1月号「佳作」電子版に掲載

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る