せなかのくぼみ(ココア共和国2024年2月号電子版掲載「佳作II」)

あたし翼をなくしたの


そう言ってぼくに背中を見せたきみは、


きれいな肩甲骨には自由自在にへこむくぼみがあって


ぼくはきみをずっと裏返して見ていたくなる。


園芸用のスコップには、


小さな苗を小さな鉢植えに寄せるための


それは小さなスコップがあって、


それがぴったりな大きさだ、


なんてことを考えながらぼくはきく。


なくした翼はどうしたの?


さあ、なにしろいたくて、いっぱい血が出たから、


いたみをふさぐことに、あたし夢中になったから、


消えた翼がどこへ行ったかなんて、


ぜんぜん覚えてないんだもの。


柔らかいはだに、爪を立てたい気持ちに蓋をして、


口を開いて、心を探る


傷なんか一筋だって、ついてない。


見えないの?


見えないよ。


変ね。でもまあ、いっか。


翼がもげた傷なんて、じぶんにはみえるわけはないんだから、


きみはきっと嘘をついている。


でも絶対そうだとも、いいきれなくてぼくは、


肩甲骨のくぼみに指を3本はわして、


痛かったねときみを抱く。





(秋吉久美子さんのちょっといいね!に選んでいただきました)

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