イベリスと赤いゼラニウム

ちゃーむ

春の章 彼女

白い花が好き。

書く理由はそれだけでいい。


横長で楕円形の植木鉢。

木片もくへん同士を隣り合わた上から金属で巻いて補強されている。


右側半分に根を張って一ヶ月、 隣半分の土色の大地がやけに乾いて見えた。

如雨露じょうろのシャワーを浴びて細かい水滴をまとうとにわかに目が覚めた。


桜の花びらが流れてくる頃、 隣に空いていた私の心に一際目の覚める紅衣こういが舞い降りた。


彼女は言った。


あなたはとてもいい香りがするのね。羨ましいわ。


遅れてやってきた彼女は微笑ほほえんだ。


社交辞令なのか、本心ではない上辺うわべだけの印象。


君の刺激的な赤い香りは、好きかな。

なぜなら悪い虫たちを寄せ付けないのだから。


そうなの? 全然気が付かなかったわ。


君でも知らないことがあるんだね。




僕はイベリス。 君の名前は?


私、ゼラニウム。

ゼラ、でいいよ。




今日も空が流れているね。

そんな言葉を口にした。


でも、彼女はそれを黙したまま風に揺れていた。


僕たちは大地に恵まれた第二の空だ。

こうして見つめ合うことでお互いを尊重できる。


初対面の相手にそんなこと、よく言えるね。

不快感をあらわにするとげのある言の葉。


黄色い蝶々がゼラを避けるように、ふわりふわりと舞いながらイベリスの花弁に止まるとそっとキスをした。

少しくすぐったくて、でもそれでいながら、少し嬉しくて。


次の日も、その次の日も、また違う蝶が可憐な白にとまる。


あなたはいいわね。

きっと白い色がきっと優しいんだわ。

それに香りも。

あなたの色と交換したい。

赤はそんなことを言う。


君はそのままの赤が似合うから胸を張って、空を眺めていればきっといいことあるよ。


そうかしら。

まぁ、気長に待ってみようかしらね。




晴れの日は彼女がきっと喜んでいるから、

どこまでも続く笑顔を眺めていよう。



曇りの日は彼女がどこか悩んでいるから、

時の流れを感じるようにそっとしておこう。



雨の日はみんなが悲しく泣いているから、

やさしい涙として受け入れよう。



雪の日は、そうだね。

もう私たちはもうかえっているから、

思い描いていよう。



また、どこかで新しい君に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る