第108話:ダンジョン開放第二段階







 鎖国組内でのダンジョン開放第一段階は無事に突破した。

 やってくる国外探索者は試験を突破した人たちだからか、問題行動を起こす人はほぼおらず、神罰が降った人もいないそうだ。

 そのことにダンジョン創造主達だけではなく、多くの鎖国組の国々もほっと胸を撫でおろした。


 やはり試験を実施して免許の取得を義務付けたのは間違いではなかった。

 そう、各国のダンジョン省はほっとしたらしい。




 そして始まったダンジョン開放第二段階。

 一部のUR所有ダンジョンの開放である。


 第一段階の間にグレード2の免許を取得した探索者がぞくぞくとUR所有ダンジョンへ向かうようになった。


 日本はグレード1とグレード3しかないのでほぼ他人事だったが、日本人探索者でグレード2の免許を取得した人たちが国外のダンジョンへ向かい、その様子をSNSにアップするようになると、グレード1の免許しかとっていなかった人達や、そもそも試験を受けていない人たちがグレード2やグレード3の免許の取得を考えるようになった。


 グレード2のダンジョンは免許の取得率がグレード1に比べると低いのでUR未所持のダンジョンほど、外国人探索者は訪れていない様ではあるが、試験を通過しただけあり、皆マナーを守って活動してくれているようだ。

 現状、一颯たちはそういう情報を担当神やSNSから取得するしかないのである。

 このまま第二段階が問題なく進めばいよいよ第三段階、一颯と近藤のダンジョンの開放が待っている。


 しかしながら、グレード3の免許取得率はかなり低く、何人もの探索者が試験に落ちているらしい。

 グレード3はグレード1、2の試験を突破できるのであれば後は郷に入っては郷に従え、この面を試験されるだけなのだが、これがなかなかに難しいらしい。


 そもそもとしてグレード2の試験に受かる人であれば大体は突破できるはずなのだが、よくよく話を聞いてみると、グレード3しか試験を受けていない人が結構な数いるようである。


 グレード3の試験を突破しているのはダンジョン開放の段階に合わせてグレード1から順に取得してきた人だとか、各国のダンジョンに元から興味があって色々と調べていた人だとかが多い。

 日本の近藤ダンジョンもしくは土方ダンジョンのみに焦点を当てていた人程試験に受かる率が低いのだ。


 中には日本のダンジョンに行きたいだけなのに、他の国の知識なんていらないだろうと主張する人がいるのだが、世界探索者免許はそれを認めていない。

 今後、もし鎖国組の国が増える事があればどうするのだろうという疑問は誰もが持っていることであるが、そんなことを各国政府が考えていないはずはないと思っている。

 きっとその時になったら何かしら発表があるだろう。


 まあ、とは言えどもインドの様なイレギュラーがない限り鎖国組は今後しばらくは増えることがないとは思うけれど。






 さて、鎖国組が順調にダンジョンを開放していく間、国際化組はと言えば。


 鎖国組に入りたいと嘆く人や国、国際化組にも開放しろと叫ぶ人や国、無秩序化している国際化組のダンジョン開放をどうにかしようとする人や国、というように動きが分かれている。

 アメリカを中心にダンジョン開放の問題をどうにかしようと制度作成に乗り出していたようだが、国際化組に制度が出来る前に鎖国組が先を行ってしまったので、国民から不満の声が噴出してしまって頭を抱える羽目になっているようである。



 そんな中でついに我慢の限界を迎えた数か国が自国から他国の探索者を締め出してしまった。



 あまりにもマナーの悪い、ダンジョンの治安を悪化させるばかりの国外探索者に我慢ならず、ダンジョンの国際化を取りやめる動きが出てきたのである。

 そういう国はだからといって鎖国組の仲間に入ることが出来たわけではないし、国際化組からは抜けた存在で、しかし中立とは言えない宙ぶらりんな存在となった。


 この宙ぶらりんなグループには台湾が含まれている。

 台湾にはアメリカ新聞社作成のランキングで人気が急上昇してトップ10入りした恐竜モチーフの桃園ダンジョンが存在する。

 その桃園ダンジョン目当てにくる外国人探索者のマナーの悪さにそのダンジョン所属のモンスターたちが毎日毎時間の様にブチギレて被害を出すものだから国際問題も深刻で、たまりかねた政府が国外へのダンジョン開放を取りやめてしまったのである。


 台湾だけではなく、他にも数か国がそれに続いている。

 アジアでは台湾とタイ、ヨーロッパではオーストリア、チェコ、ドイツが他国を締め出した。他にも他国を締め出した国はあるが、日本でニュースとして大々的に取り上げられて広く認識されたのがそれらの国々である。


 そして宙ぶらりんな存在となった国は「国際化辞めたので鎖国組入らせてください」と鎖国組に打診してくるようになったのだが、それでも鎖国組はダンジョン開放で動いている途中なので断り続けている。

 そしてどういうわけかその宙ぶらりんな国々は勝手に『準鎖国組』なんて自分たちを呼び始めたものだから鎖国組の面々が何とも言えない顔になったりもした。

 呼び方からして鎖国組に入りたいという願いが透けて見えてなんだかなぁ、と鎖国組の各国ダンジョン省の役員たちは苦笑いしているようだ。







《エジプトのピラミッドダンジョン楽しかった!!》

《URモンスのスフィンクスと会えた!めっちゃ穏やかだった。この子怒らせたエジプト国民やばない……?》

《いうてスフィンクスがキレたのその1回だけだがな》

《エジプトのダンジョンまだ作り替え途中だって言ってたけど、どんな感じに作り替えられるんだろ?作り替えられた後にもう一度行って違い確かめてみたいなぁ》


《カナダのファフニールいるダンジョン、植物系のダンジョンで綺麗だったんだけどところどころ毒沼あるの、まじでトラップすぎる》

《そういやカナダのファフニールダンジョンって名前なんだっけ》

《マニトバ州にあるからマニトバダンジョンって呼ばれてるぞ》

《台湾と同じ感じの命名方法なんか》


《マニトバダンジョンの毒沼、ファフニールが浸かってるの見て思わず二度見した。カナダの探索者に笑われた。よく見る光景なんだって》

《土方ダンジョンの川で大蛇姿の清姫さまが転がってるのと同じ感じかな?》


《スウェーデンのオルソンダンジョン、エキドナいるところだけど、ボス部屋にエキドナいるんだが》

《まじで??》

《エキドナと戦えってこと?》

《エキドナが召喚するモンスターと戦うみたい。土方ダンジョンのフィールドボスと同じでチャレンジコンテンツなんだって。エキドナが暇だからって始めたらしくてそれが定着したっぽい。結構チャレンジャーいたぞ》



「ファフニールのところがマニトバダンジョン、エキドナのところがオルソンダンジョンで……スフィンクスのところはなんですの?」


 配信のコメントを見ていた桜子が視聴者へと問いかける。



《ピラミッドダンジョンやで》



「……本当にそのままなんですの?」


 自分の質問に帰ってきた答えに思わず目をぱちくりとさせてもう一度聞けばその通りだというコメントが流れてくる。

 まさかまんまそのままピラミッドがダンジョン名になっているなんて思っていなかったのである。


「え、では、ギリシャの神殿モチーフのところは?」



《あそこはクレタダンジョンって呼ばれとる。地方名からとられたパターンやな》



「まあ、そこは流石に神殿ダンジョンという呼び方ではないんですのね」



《一時期そう呼ばれてたけど、呼び方統一されてクレタダンジョンになったんよ》

《博識ニキ助かる》


《そういや土方さんたち何時ものダンジョン作成班いないけど??》

《その面子いないってなると新エリア作成だろ》



「そのとおりですわ。主さまたちは今、新エリア作成中ですのよ。朧さま、錦さま、馨さま、深山、繊月、寒月、霧雨がかり出されていますわ。いつものメンバーに今回から霧雨と馨さまが加わった形ですわね」



《おお!やっぱり!》

《楽しみにしてます!》

《いつになるかなぁ》

《土方さんのことだからなんかの節目とかタイミングでリリースしそうな気がする》

《今だとダンジョンの段階開放中だから第三段階突入した直後とか、第三段階後、問題なし判定されてから、とかかな?》

《ダンジョン作成班に馨さまと水龍の霧雨さま加わったんか》

《まあ土方さんとこは緑と水のダンジョンだから重宝されるやろ》

《作業が分担できるのはええな》

《霧雨さまは普段水龍の都の旅館で姿見るけど、今はダンジョン作成班に回されてるのかぁ》

《馨さまは言わずもがなやしな》

《地形整えるのとかで馨さまの出番は多いだろうなぁ》



「桜子ー」

「あら、主さま、どうされましたの?」

「ごめんやけど衣墨か白夜呼んでクレメンス。あと白木と榊」

「分かりましたわ」

「頼んますー」

「面倒なので妖狐コンビどっちも呼びますわね」

「りょ」


 ひょっこりと戻ってきた一颯に言われて桜子は立ち上がる。

 お願いするだけして一颯はさっさとダンジョン作成に戻っていったので桜子はふうと息を吐き出した。

 今回の新エリアはとんでもなく広いので忙しいのだろう。

 完成したイメージ図を見せてもらったが、今までの比ではない枚数が用意されていたし、完成度も恐ろしく高かった。


「と、いうわけですのでわたくしも失礼しますわね。衣墨と白夜の代わりにスタッフとしてダンジョンに入りますので、これにて終わりにしますわよ」



《はぁい!》

《相手してくれてありがとうございました!》



 ノートパソコンを操作して配信ページを閉じた後、モニターの電源を落とし、桜子はさて、と腰に手を当てた。

 衣墨と白夜は水龍の都のギルド付近にいるのは分かるが、ダンジョン内を散歩している白木と榊はどこにいるだろうか。

 まあぱっと探して見つからなかったら一颯に報告して強制送還してもらえば良いだろう。

 桜子は一度ぐっと腕を上に上げて伸びをしてダンジョン内へと入っていった。











 その後、ダンジョン開放第二弾もダンジョン内では特に問題なく外国の探索者が活動をはじめ、特に国内探索者と大きな衝突もないことにダンジョン創造主はほっと胸を撫でおろした。


 そう、ダンジョン内では問題はなかったのだが、ダンジョンの外では少々トラブルが起きたりはしたのである。


 楽しみに思い過ぎてテンションを高くした国外探索者が周りが見えなくなって他の探索者に意図せず迷惑をかけてそれに怒った国内探索者と喧嘩になったり、国際化組の探索者が押しかけて自分も入らせろと喚いて神罰を降されたりなどしたようだ。

 なので、テンション上げるのは良いが周囲に気を配るように、一度落ち着いてから来るようにと何度も注意が飛ぶようになったそうである。


 国際化組の探索者で迷惑行為をする者たちは全員強制送還され、その国に抗議を入れたりといった対応をとったそうだ。

 国際化組の国が鎖国組に入れないのはそういう探索者が減らないからだと良識ある人達が怒って、問題を起こした探索者を叩いたりなんかもしたようである。

 ただ、国際化組の問題を起こす人達を抜きにして鎖国組の中では多少起きたトラブルは許容範囲内だったので、ついに最終段階、近藤ダンジョンと土方ダンジョンの開放へ向けて鎖国組は動き始めたのであった。


 ただし、第三段階突入までまだ猶予はある。その間に土方ダンジョンと近藤ダンジョン周りの確認作業をしなくてはいけない。

 グレード3のダンジョンは今のところ日本のUR所有ダンジョンのみだが、そのどちらもが控えめに言わなくても、かなり気を付けなくてはいけないダンジョンなのである。

 片や短気なUR持ち、片やUR3体持ちというどれだけ気を付けても気を付け足りないようなダンジョンなのだ。

 グレード3の免許を持っていないと入れないからと言って免許持ちの探索者を全面的に信用するわけにはいかない。

 予防線は幾重にも張り巡らせたつもりではあるが、それでも足りないかもしれない。

 日本ダンジョン省は慌ただしく動き始める。その動きを察知した世間は第三段階が近いと感じとり、少しだけ緊張を高めた。


 斎藤ダンジョンと沖田ダンジョンは順調に外国人探索者が活動している。このまま、土方ダンジョンや近藤ダンジョンも順調に行ってほしいものである。

 特に近藤ダンジョンは、今後、開放NGとなっているUR所有ダンジョンの開放のための指標となるのだ。コケるわけにはいかない。大成功はしなくてもいいが、そこそこ成功してくれないと困る。


 それに土方ダンジョン。現段階でグレード1の免許持ちかつ薬や治療を求めている人のみに限定開放しているが、第三段階になるとグレード3の免許持ちがやってくる。

 そのどさくさに紛れて治療後などに使用不可の施設に入ったり、フィールドに出たりしないかどうかの心配もある。

 まあ、そんなことした場合は即座に神罰が降るし、免許は即はく奪されるのだが、そんな真似をする人が出ないに越したことはない。


 いくら心配しても足りない。

 鬱陶しいほどに心配して予防線を張って、ダンジョン外でトラブルを食い止めたい。ダンジョン内でトラブルなんて起こさないでほしいのである。

 そのためならばくどいと言われようが、面倒だと言われようが、ダンジョン外で食い止めるべきだろう。

 神罰も恐ろしいが、URの怒りだって恐ろしいのだ。

 鎖国組はほぼUR所有国で構成されている。例外のギリシャやスイスだって鎖国組だからこそ、よくわかってくれているはずだ。

 国際化組の様なことにはならないのは分かっている。そのために免許を作ったのだから。

 それでも心配するなという方が無理なのだ。

 ダンジョン省の役員やその下で働く組織の人たち、ダンジョン開放に携わる人々は皆、痛む腹を抑えたりしながら刻一刻と迫る第三段階に向けて動いていった。

 




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