ソフィア1
今年から晴れて私立
千春が初めて教室に入った時、嫌でも目を惹かれた。
最初は異星人がいるのかと思った。
なんか白く発光している妖精みたいな女がいたから。
窓際の一番後ろの席に彼女は座っていた。
ただ背筋を伸ばして座っているだけなのに、どことなく上品で気高い雰囲気があった。
紺のブレザーの上に流れる少女のウェーブがかった銀髪は、日光を反射する新雪のように眩く輝いて見えた。
千春は不躾に彼女の横顔を眺めてから、気を取り直して教室の壁に設置されている巨大なホワイトボードへ向かう。
ホワイトボードの真ん中に貼り付けられている座席表に目を通し、千春は自分の名前を探す。
千春は自身の名前よりも先に、銀髪の少女の名前を探していた。
窓際の一番後ろの席……。
ソフィア・エンティア・レヴィアタン。
名前が長すぎて、枠内に収めるために文字の大きさが他の生徒よりも二回りくらい小さくなっていた。
席は五十音順なのに、なぜソフィアが最後尾なのかは謎である。
ファミリーネームのレヴィアタンで並べたとしても、ワ行の苗字の人間がいるのでおかしい。
後ろを振り返り、自分の席を探すと見せかけてソフィアの顔を盗み見た。
綺麗な顔立ちをしていた。神様が遺伝子に任せずに、わざわざ自分の手で作ったのではないかと疑うくらい整った顔立ちをしていた。
美少女が隣の席とか、幸先良いじゃんとか思いながら、千春は自分の席へと向かう。
「よろしく」
無難な挨拶を隣の席のソフィアへ投げかける。
もう一方の隣の席にも少女がいたのにも関わらず、ソフィアにだけ挨拶をしたのはかなり露骨で心証は悪いかもしれない。隣の席の普通の少女には興味が無かったので仕方がなかった。
「……よろしく」
挨拶を受けたソフィアは無感情に千春の顔をまっすぐ見つめ、少しの間を置いてから挨拶を返した。
たった四文字の挨拶なのに既にイントネーションが怪しい。
もしや留学生だったか?と疑問に思いながら、千春は次の言葉を探す。
「綺麗な髪してるけど染めたの? 地毛?」
教室に入った時、真っ先に目に入ったソフィアの銀色の髪について聞く。
「…………■■■■■■■ ■ ■■■■■■」
突然彼女の口から宇宙語が発せられ、ぽかんとした表情になった千春の脳内にも宇宙が広がる。
「なんて?」
「言葉 話せない」
アイ キャント スピーク アシハラというやつらしい。
「言葉話せないのによく入れたね」
「…………?」
千春は試しに、『あなたの髪はとても綺麗』と髪に書いてソフィアに見せてみた。
文章をシャープペンシルで示しながら、問いかける。
「読める?」
「わからない」
ソフィアは首を振った。返ってきた言葉も”読めない”じゃなくて”わからない”である。
これはお手上げだと、千春は手のひらを彼女に向けて両手を肩ぐらいまで上げた。ついでに「お手上げだ」と口にも出す。
千春の様子を見て、ソフィアは無表情のまま僅かに首を傾ける。
喋れない読めない、ということは当然書けない。
彼女はなんのためにこの学校に来ているのだろうか。
これでは必修単位は絶対に取れない。葦原語をマスターするまで留年し続ける気なんだろうか。
千春は詳しくないが、なんかそういう母国語しか話せない人間を集めた専門のインターナショナルスクールに通った方が数倍有意義な時間を過ごせるように思えた。
とりあえず会話を諦め、千春はスマートフォンを取り出してパズルゲームを始める。
ソフィアはお行儀よく足を閉じて背筋を伸ばして座ったまま、横目でゲームに勤しむ千春の様子をこっそり伺っていた。
これが、千春とソフィアの出会いだった。
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