君を気取る、そして歌になる。
白月綱文
プロローグ 1と0
『プロローグ1』
曲の鼓動となるドラムの音、感情を後押しするピアノの旋律。
印象を刻むギターの音、共鳴し合うコーラス。
───そしてそれら全てに支えられた電子の歌声。
それはいつか消えてしまったもの。見失って、見つけられなくて。自暴自棄になった俺の元に現れた、瞳に映らない君。
吐いて捨ててしまったはずの言葉をもう一度紡げたのは、俺の人生が再び始まったのは。
あの日その音が、時の止まった日々に舞い降りたからだ。
「───過去から貴方を救いに来ました。」
きっとその瞬間から、俺の鼓動は息を始めた。
『プロローグ0』
俺の人生はきっとあの瞬間から粉々になって、もう元には戻せなくなってしまっていた。
度々そう思ってしまう、暗い過去の話しか頭の中に浮かんでこない。
すぐさま風にさらわれて消えていった噂話。それが証明してるように、人の命の価値なんてそこにあって存在しないようなものだった。
実際、俺の命に値段のラベルを貼ってくれるような人間なんて居ない。
首元から大きく上に続いた切り傷、他人に止められたなんてしょうもない理由で失敗した自殺。
元々独りだったのにさらに拍車をかけて、世界と俺とを隔てる壁は、より強固な城壁となって近付く気さえ起きやしない。
空気にすらなれない腫れ物の人生。大した楽しさがない、なんで死んでいないのかが分からない。
強いて言うならば、死ぬことすらもはや面倒になってしまったんだ。
代謝と呼べるほどの生き方をしていない、このまま死体になるのにどれだけの時間が要るだろうか。
放課後を告げるチャイムが鳴るなり、すぐさま教室を飛び出した。
気分の重さと比例して早く進む足を、誰かに気にされたくないなんて意識が抑え込む。
いつか、世界を変える出会いがあった。だからこそ、その別れは世界を引き裂くものになっていった。
あの日から、俺は腐っている。ずっと、何も出来ないまま腐ったままだ。
そうして消えて無くなるまでを、どこか呆然と待っている。
何もかも捨て去ってしまえたらなんて妄想が、ずっと根を張って消えさらない。
夢を語り合った教室が遠ざかる。その隣を歩いた渡り廊下を、出会いがあった昇降口を抜ける。
浮かんでは溶ける記憶を、無視して家へと向かう。
彼女が死んで、色の消えた世界に取り残されてからもう1年が経とうとしている。
行き場の失くした幼い痛みが、ずっと胸の内で駆けずり回っている。
玄関を開けて、そのまま自室へと転がり込んだ。ベットに倒れ込んでは流れ作業でノートパソコンを開く。
そんな昨日と何ら変わることが無かった時間。意味がなく消費するだけの日々。そこに舞い降りたのは
───ずっと、いつも、求めていた音色。明るくて、澄んだ、君の声色。
それは俺のパソコンから、1つずつ言葉を紡いだ。
「過去から貴方を救いに来ました。」
時を超えて、俺の元に君が訪れた。
ただ、それは求めていたものとはまた別の形で、重く辛い選択を迫られることになる。
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