第4話 天邪鬼
天邪鬼が死んだ。もう何処にも天邪鬼はいない。現代は少し眼に入るものが多くなった。ここに一つの主張や主義や意見や感想、誰がが思った事があるとする。天邪鬼は嬉々として、或いは無意識にその思った事に反対し、真逆の思った事をあたかも最初から思っていたかのように組み立てていき、組み上がったところで口を開く。すると他の誰かが天邪鬼よりも早く、その誰かとは真逆の事を言ってしまう。その人は何も天邪鬼なのではなく、自然にそう思った事を言っただけだから、当然天邪鬼よりも早く思った事を言い終えてしまう。困った天邪鬼。多過ぎる言葉の前で、彼は何に反抗していいのか、分からなくなってしまったのだ。何も言えないまま、部屋の片隅に小さくなって座っていた天邪鬼は、ある日ふと気がついた。言葉が多くて何に逆らって良いのかわからない世の中であるのならば、こうして黙していることが正しい自分の在り方ではないか。そうだ、きっとそうに違いない。天邪鬼は嬉々として、その日を境に何か思うことを辞めた。その後彼がどうなったかはわからない。ただわかることは、2つの意味で天邪鬼はもういなくなってしまった、という事だけであった。
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