鏡映の道化師と反転の僕

八岐ロードショー

今日を終えた人間だけが明日を迎えるの

「明日のことは明日考える。たとえ明日、世界が粉々になったとしても」


 僕は空になったビール瓶を持ち上げて、瓶の底で円を描くように振り回していた。


「それは無理。今日を終えた人間だけが明日を迎えるの」


 僕の目に映った彼女の顔は白くぼやけていた。初めて出会った時の顔とは違っていた。靄がかかっている。その奥の表情をよもや思い出すことはなかった。


「どうやって終える?」


 彼女の小さな耳に僕の言葉は届いていなかった。もう一度聞き直すことはない。


「どこに明日はある」


 白い壁には、着物を着た女が奇妙な笑みを浮かべて酒を飲み、はしゃいでいるポスターが貼ってあった。いつからか彼女の姿は無かった。あるいは、僕はずいぶん長いあいだ壁に話掛けていたかもしれなかった。きっと長い年月だった。数えられるだけで3回は記念日を祝った覚えがある。それでも僕が記念日らしく祝ったのは最初の一度だけだったと思う。


 どこにある。


 割れそうな頭をテーブルに強く叩きつけた。それが後に僕が思い出せるであろう、その日の唯一の記憶だった。

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