Chapter 3-3 まずは朝食を摂って落ち着きましょう

 影響を受けやすい? どういうことだろうか。


「それは――」

「はーい、一旦お話しは終わりー」


 どういう意味かとたずねようとしたとき、静観していたかなたが手を叩いた。


「とりあえずー、朝ごはんにしよー」


     ※     ※     ※


 今更だが、きらめが倒れてからまだ一晩が明けただけのようだ。それより、やはりこのソーセージエッグマフィンはおいしい。もっきゅもっきゅ。


「うまそうに食べるんだな」

「はい、すごくおいしいですよ! ゲンさんは食べないんですか?」

「ん? ああ、俺はもうもらったよ」

「おいしいですよね! これもかなたさんが作ったんでしょうか?」

「そだよー。あー、あと、カナでいいよー。呼び捨てか、ちゃん付けでよろー。さんは、恥ずい……」


 無表情に顔を赤らめるという器用なことをやってのけつつ、かなたはデザートの杏仁豆腐を用意していく。


 きらめはマフィンを食べ終えると、早速デザートに舌鼓を打つ。


「んー! これもおいしいです! 天才ですか!?」

「あざーっす。……きらっちストレートすぎてお姉さんときめいちゃう」

「お姉さん?」

「あれ? 言ってなかったっけ。あたし、こう見えてもじゅうななさいのピチピチギャル(死語)でーす。JKだよー、JK。常考常考。なんというパワーワード。あれ、これも死語だっけ?」

「なん……だと……!?(迫真)」

「……ふぅーっ。なんというか、君は付き合いがいいんだな」


 それは完全に、若者のノリに付いて行けず戸惑うおじさんの図であった。


「はい! 楽しいですよ?」

「お、おう……」

「きらっちもうやめてー! ゲンさんのライフはもうゼロよー!」

「HA・NA・SE!」

「……あー。楽しそうなところ悪いが、食べ終わったら一度話を戻してもいいだろうか?」

「あっ、はい」


 そうですよね、ときらめは気を取り直して杏仁豆腐を平らげる。かなたの提案と悪ノリではあるが、ちょっとハメを外しすぎたかもしれない。

 なによりリーゼの命がかかっているのだ。気分転換はここまでにしておこう。


「それで……えっと……」


 きらめは顎に手を当てて固まった。そのまま首を徐々に傾げ、


「なんでしたっけ?」


 ズルっと、ゲンの姿勢が崩れる。


「……君のイクスが、瘴気の影響を受けやすいという話だ」

「ああ、そうでしたね。それはどういう意味なんでしょうか」


 きらめの問いに、ゲンは姿勢を直して深く息を吐いた。そしてサングラスを外す。

 まっすぐに見つめるゲンの瞳は、どこまでも深く、遠くまできらめのことを見ているような気がした。


「……君の力は、瘴気を浄化できる希少なものだ。恐らく、この世界で唯一の力だろう。君の相棒であるウリボー君も、瘴気を感じることのできる力を持っているようだが、それは後付けのものだろう? 君は生まれたときからその力を持っている。それゆえに、瘴気の恐怖に侵されたことはないはずだ。……だが、いや、だからこそなのか。君のイクスは、確実に瘴気に蝕まれている」

「え……?」


 呆然とするきらめ。静寂のなか、それを打ち壊したのは食堂のドアが開く音だった。


「カナちゃんおはよー。……あれ? なんか真面目な話してる?」

「ライトっちおはー。今回もねぼすけだったねー。もう三日目くらいだよー」


 寝ぼけ眼で現れたのは、金髪の少年であった。小柄で、背丈はもしかしたらきらめとそう変わらないかもしれない。

 ライト……? きらめはその容貌と名前に、もしやと思うところがあった。


 きらめが見つめていると、ライトと呼ばれた少年はゆっくりと片手を挙げる。


「ライト・オリハルコンでーす。よろしくー……むにゃむにゃ」


 そう。彼こそは『スターライト・ファンタジア』の主人公である、ライト・オリハルコンその人だったのだ。

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