Chapter 1-12 旅立ちの日がきました
きらめは屈伸、伸脚とストレッチを入念に行い、最後に大きく背伸びをすると、その場で軽く跳ねる。
「……よし」
軽く動いてみた感じ、身体に問題はない。さすがは神様からもらった、『健康で自由に動ける』身体なだけはある。もともとそんなに大したダメージを受けなかったというのもあるが、巨猪との戦いから一晩明けただけで全快していた。
ただ、手を使った大きな動きはあんまりできなくなっちゃったかな、と両手を見ながら思う。
きらめの両手には、合わせて四つの指輪が嵌められていた。それぞれ赤、青、黄、緑に輝く石が埋め込まれている。
一息吐くと、足元に置いていたナップサックを拾い上げる。
「……きらめ」
声を掛けられ、肩に提げたナップサック越しに振り返った。
ドラ、ディー、ノン、ルフェ。きらめを十年間育ててくれた、親代わりでもあり、友達でもある妖精たちが、並んできらめを見つめていた。
「うん。行ってくるよ」
「寂しくなったら、いつでも帰ってきていいのよーう!」
巨猪との戦いの後、きらめはすぐに旅に出ることを決めた。妖精たちは口を揃えて反対した。が、きらめは瘴気を浄化することが自分の使命であると強く認識していた。
そんなきらめの強い意志を認めたのか、妖精たちはきらめに指輪を渡したのだ。それがきらめが今、両手に嵌めている指輪である。
「大丈夫だよ。ウリボーもいるし、それにこれもあるんだし」
きらめは両手を掲げて微笑む。彼の足元には、勇ましい表情を作ってみせるうりぼうの姿があった。
ウリボーと名付けられた彼は重傷だったが、きらめのイクスをその身に受けた影響か、驚異的な回復をみせた。そしてきらめが行くのなら自分も付いて行くと、身体を張って主張したことで同行が決まった。
どうやら瘴気に対しての大きな抵抗力も得たようで、きらめが聞いた瘴気を弾く音を彼も認識していたのが、同行してもらう最大の決め手であった。
対して妖精たちに里に残ってもらうのは、きらめの希望でもあった。妖精たちは大樹の庇護の下で、瘴気から逃れて生活している。それを旅の仲間として連れ回すのはきらめ自身が許せなかった。
だからきらめは、ウリボーと二人で行くことに決めた。自分の帰るべき場所がここにあるんだと、そう思いたかったからかもしれない。
「それじゃあ……」
きらめは大きく息を吸うと、深々と頭を下げた。
「今まで、ありがとうございました! ずっと育ててくれて、ずっと一緒にいてくれて! だから!」
こみ上げてくるものを、溢れ出るものを、誰も止めなかった。
「絶対、帰ってくる。……行ってきます!」
きらめは前を向き、大きく手を振りながら駆けだした。
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