56.賑やかなご家族
抑えていたイムリーがキャーッと目を輝かせている隙に、プラドはソラの元に駆け寄った。
アニスへ菓子を両手で差し出すソラの肩を掴んで「ちょっと待てお前っ!!」と制すれば、ソラが不思議そうな顔でプラドに振り向いた。
「どうしたプラド」
「どうしたっておま……っ、け、結婚って!」
「お付き合いとは結婚を含めてのものじゃないのか?」
「そっ、そりゃ、そうかもしれないが……っ」
「……──すまない……プラドは私との結婚は考えて無かっ──」
「付き合う前から考えてたに決まってんだろっ!!!!」
「──それは早すぎないか?」
なんなら料理対決後からもう妄想していた。
好きな子が出来たら一度はする妄想だ。プラドの妄想は一度や二度では無かったが。
「俺に言わせろよ馬鹿野郎ッ!!」
「ふむ、すまない?」
二人の思い出にいつまでも残るようなロマンチックなプロポーズを考えていたプラドにとって、青天の霹靂すぎた。
ピアノが奏でる音色を聞きながら色とりどりの花に囲まれた美しい場所で頬を染めるソラに跪いて指輪を……なんて妄想していたのに。
つくづくソラ相手だと行動が読めなすぎて予測できない。もうこれがソラという人間なのだから仕方ないのだが。
そう達観してプラドがよそを向くと、視線の先に、騒がしかったはずのアネリアが驚いたように固まっている姿に気づいた。
「義姉上?」
アネリアも突然の結婚話に驚いたのだろうか、と声をかけるが、アネリアはソラから目を離さない。
そして──
「──……ソラ・メルランダ……?」
と、アネリアが不意に呟く。
「……やはり、あの天才魔術師の……?」
次に呟いたのはアニスだった。
今までずっと放心状態だったアニスの瞳が輝き出す。
なんとなくこれは、マズイ。と、プラドの直感が訴えた。
「あの、あにう──」
「──よくやったプラドッ!!」
差し出された菓子をソラの手ごと掴みながら、アニスはプラドの声をかき消す勢いで叫ぶ。
「まさかあの百年に一人の逸材と噂される天才魔術師を連れてくるなんて……! ハインド家の当主として鼻が高いぞプラド!」
「ホントに……ホントにソラ・メルランダさんなの!? 確かに噂通りの美貌だけどまさかこんな……っ」
「ソラ・メルランダさん、卒業後はぜひハインド家として私が任されている軍に……!」
「何言ってるの! 国土魔通省にこそ必要な人材よ!」
「アネリアこそ何を言ってる! 類稀なる魔術の実力を発揮できるのは軍だろう? 魔獣など木っ端微塵だ。それにソラ・メルランダ製の携帯保存食も軍では高く評価されている!」
「これだからアニスは底が浅いのよ! ソラ・メルランダさんの論文を知らないの? 彼は画期的な移動手段の魔術を開発中なのよ? それをいち早く実現できて国に貢献できるのはウチしかないじゃない!」
「ねぇねぇ結婚したらメルランダさんは私のお兄様になるのよね? いつ結婚するの? 卒業したら?」
しっかり収拾がつかなくなったハインド家を、プラドは温かな笑みを浮かべる使用人と共に遠い目で見つめる。
もうダメだ、手がつけられない。
「賑やかなご家族だな」
「これを賑やかで済ますお前がすげーよ」
勝手に盛り上がる家族からソラを隠し、プラドは疲れと呆れのため息を吐いた。
侍女達がソラの髪を梳かしたそうにブラシを握り締めていたので、ひとまずソラは彼女らに任せる事にした。
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