54.二人のそれから
* * *
二人が初夜を迎えて数月経った。
恋愛にかまけて成績を落とすこともなく、相変わらず二人は優秀なままだった。
ソラほどではないにしても、プラドも十分に魔術馬鹿だったからである。
むしろプラドに関しては、ソラと共に研究を行う機会が多くなったからか、以前よりさらに魔術に精通した。
しかし相変わらず二人の順位は変わらなかったし、それでもプラドは相変わらずソラを抜こうと躍起になった。
「なぜ抜けん……!」
「ふむ、なぜだろうか」
「真剣に検証するな! 惨めになるだろが……っ」
相変わらずの試験の結果を見て、納得いかんと言いたげにぶちぶちこぼすプラド。
以前と変わらぬ光景なのだが、少し変わった事といえば、プラドがいつまでもソラの隣に居る事だろう。
数ヶ月前であれば、ソラに宣戦布告をして友人二人を連れて去っていた。
今は、不満げな顔をしながらもソラの隣で敗因を分析している。
ちなみにプラドのご友人、トリーとマーキは少し離れた場所でそんな二人を見守っていた。
プラドそっちのけでソラに見惚れていると言っても間違いでは無い。
「プラド、以前話していた新しい魔法陣の実験を今日したいのだが」
「あぁ、学園に許可は取ってる。さっさと行くぞ」
授業が終えれば、二人は決まって魔術の研究に入る。
二人の高度な研究に他の生徒はついてこれず、遠巻きに関心そうに見られはするが、あまり声はかけられない。なので必然と二人だけで行う事が多くなっていた。
今日は二人で提案した新しい魔法陣を試す日だ。
学園の訓練場は許可制で、本日はソラ達の貸し切りだった。
これならば広々と使えるなとソラは考えたが、どうやら隣の男は違ったらしい。
「……んっ!」
多少の衝撃ではびくともしないように作られた頑丈な扉を閉めたとたん、ソラは唇を奪われた。
扉に追いつめられ、逃げ場を無くした体はプラドと密着する。
ソラの顔の横に腕をついたプラドは、角度を変えてまた口づける。
プラドはソラの柔らかな唇を堪能するように軽く噛みながらキスをして、舌先で下唇をなぞった。
そこでソラはプラドの唇に指を当て、そっとストップをかけた。
「プラド」
少しいさめるように名を口にすれば、プラドは「……誰も居ない所でぐらい良いだろ?」とバツが悪そうに、そして僅かに不貞腐れるように言う。
キスの意味は分かっている。行為の価値は分からないが、相手に好意を寄せているとしたくなるのだと最近やっと分かった。
ソラ自身も、プラドとキスをしたいと思うようになったからだ。
だからプラドからキスを求められれば嬉しくもあるのだが、困る事もある。
「ソラ……」
「……っ」
「……──いだっ!」
ストップをかけていたソラの手を掴み、また近づいてきたプラド。
しかしここで、ゴン──ッ、と見えない何かに頭をぶつけた。
「おまっ、結界を張るのは卑怯だぞ!」
「こうしないと止まらないだろう?」
「……」
ぐぬぬ、と悔しそうな顔をするプラドだが、ソラは結界を解除してやるつもりはない。
キスだけなら問題ない。けれど、ほとんどの場合キスで終われない。
キスが長引くと頭がふわふわしてきて、抱きすくめられて更に深くなって。
気持ちよくて何が何だか分からなくなって、いつの間にかくたりと体を預けていて、耳元で「部屋に来るか……?」と囁かれ、知らぬ間にうなずいてしまっているのだ。
これでは魔術の実験がはかどらない。
なので最近のソラは、結界魔術を展開して物理的にプラドを引き剥がしている。
魔術が長けていて良かったと、ソラはつくづく思った。
試験が近づけば必然と学問に集中したが、それが終えるとプラドが触れ合おうとする頻度が増える。
部屋での恋人らしい触れ合いが嫌いなわけではないが、魔術を蔑ろにしてまでしたいかと問われれば、そこまでではなかったのだ。
これが魔術馬鹿度の温度差かもしれない。プラドがソラの順位を抜けない所以でもある。
ぶーたれるプラドを置いて、ソラはさっそく新たな魔法陣の準備にとりかかる。
その様子にようやく諦めたのか、プラドも共に記録の紙を広げて準備する。
あらかじめ用意していた魔法陣を数枚並べながら、ソラは何気なく世間話を始めた。
「プラド、もうすぐ休暇があるが」
「あ? あぁ、五日間の休暇か。どこかに行くか?」
「プラドの実家に行っても良いだろうか」
「あぁかまわない…………──、実家っ!?」
こうしてソラは、プラド・ハインド家への訪問の約束を取り付けた。
「え、お、おい、ソラ……?」
うろたえるプラドを尻目に、ソラは手土産について考え始めた。
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