スレイブ

 欠伸を噛み締め、揺れる電車の中でスマホに目を落とす。週刊誌レベルの下らない情報を眺めながら終着駅を目指す。

 その日暮らしの中身のない仕事をこなし、成績の上がらない同僚が怒鳴られるのを尻目に過ごす。時間つぶしの業務にモチベーションなんてものはない。

 家に帰れば、今日もご苦労様とチュウハイ片手にスーパーで買った総菜を摘まむ。

 テレビではマスコミ気取りの終末論者が政治家を責め立てている。

 チャンネルを回そうとも似たような内容ばかりの娯楽。洗濯機に呼ばれ、退屈しのぎの電源を落とす。しわくちゃになったワイシャツを干しながら、次の日の予定を考える。

 いつからだろうか、こんなにも日常に色がなくなったのは……。

 昔はもっと色が付いていた気がする。緑だったり青だったり赤だったりと鮮やかに色づいた日々を送っていたはずだ。

 それが気付いたらモノクロームな日常。何をしても満たされぬと欠伸交じりの溜息を吐く。

 テレビを消して床に就く。目が覚めたらまた仕事だ。

 いつもと同じホームにいつもと同じ時間に並ぶ。いつもの電車に乗り込み、四角い画面を見て暇つぶしをする。

 してるふりの仕事。上司の怒声。誰かの陰口。聞いてもいない自慢話。

 昼は大盛りの牛丼を味噌汁で流し込む。

 何のために生きている?

 誰のために生きている?

 答えのない問いに蓋をして、全ての事柄に無関心を貫いて、貰った端した金を見て溜息を吐く日々。

 不平不満は声にせず、自分はまだマシだと他者を見下す。こうなったのは自分の所為じゃないと現実に目を瞑って責任逃れの犯人捜し。

 職場が、上司が、経営者が、政治家が、国が、大人が、親が、子供が、結婚相手が、友人が……。

 誰かを罵倒せずには生きれぬ現代の奴隷たちが変わらぬ日常にため息を吐いている。

 世の中をわかったフリをするインフルエンサーに騙される信者たち。それを叩いて笑うアンチたち。

 誰もが皆、目に映る誰かを笑って生きている。それが鏡に映った人影だと知ることはない。

 満たされぬと知りながら、上から落ちてくる肉を貪る。

 そして、いつか上の景色を見て知るのだ。

 そこには支配者なんていないのだと……。

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