第6節 憧れ
それからもシオンは容赦なく俺に攻撃を仕掛けてきた。
シオンはどうやら植物系の技が得意らしい。蔓を鞭のようにしならせて攻撃をしてきたり、切れ味の高い葉っぱを飛ばしてきたりする。
(緑幻素でここまで戦闘ができるなんて……これならアタッカーでも充分通用するぞ)
と、一見先輩風を吹かしている余裕な俺に見えるかもしれないが、今それらの攻撃から逃げるのに必死である。
「うぉぉーーー!!!シャット!!シャッット!!」
周りの生徒はすっかり俺たちの戦いに魅入られている。もちろん注目されているのはシオンだけだが。
「シオン!!待った!降参だ!!」
俺の体力の限界が来たので、地面に手をついて降参の意を見せた。
「なぜか途中から勝負みたいになってましたね」
「まぁ俺は逃げてた、だけ、だけどな」
息も絶え絶えに俺は立ち上がる。
時計を見ると、もう15時を回っていた。
「よーし、今日の訓練はこれで終わりとする。明日からは基礎的な体力作りもしていくから覚悟しとけよ。それじゃあセンテンスのおニ方、今日はありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ」
「ユミル、早く帰るわよ」
ユメコはそう言いながらも、ユミルを置いてさっさと帰ってしまった。
「姉さんちょっとまってよ!……もう」
ユミルもそのまま帰るのかと思いきや、何やらこちらをジロジロと見てくる。
「なんか見られてません?先輩」
「いや、俺じゃなくて君だろ」
しかし俺たちの予想に反して、ユミルは別の人物に声をかけた。
「ちょっとそこの君、あそこに立っててもらえないかな?」
「わ、私ですか?」
声をかけられたのは、眼鏡をかけた小柄な女子だった。薄緑色の短髪が特徴的で、たしか同じクラスの生徒だったはずだ。
「そう、君」
「わ、わかりました!」
彼女はそう言うとユミルから少し離れた場所に立つ。ユミルはそれを確認すると、本を開いてこう言った。
「オープン」
その単語を聞いた瞬間、俺の脚は瞬時に動き出した。
開かれた本から高濃度の赤幻素が放出され、それは巨大な火球となって彼女に放たれた。
——え
彼女は驚きのあまり身体が動かなくなっている。俺は彼女の前に立ち、火球めがけて本を開いた。
「シャット!!」
白幻素と火球がぶつかり合う。
それは互いに少し拮抗したが、すぐに火球が白幻素の包囲を破りこちらに飛んでくる。
(まずい!!)
そう思った次の瞬間、横からシオンの声が聞こえてきた。
「先輩!!」
シオンは大木を火球にぶつけ、なんとか相殺させた。
守られた彼女は驚きすぎて腰が抜けてしまっている。
「絶対助けると思ってましたよ、"アゼン先輩"」
「……どういうつもりだ」
ユミルは詫びる様子も見せずにただ拍手をしている。
「先輩、僕は先輩に憧れているんです。先輩の白幻素は"特別"ですから」
「どういうことですか先輩」
シオンが横目で俺を見つめてくる。俺は無意識に目を逸らしてしまった。
「白幻素は他の全ての幻素を"包括"することができます。ですから僕がさっきやったみたいに幻素を一時的に保存して、それを放つことができるのです」
ユミルは右に左に歩きながら楽しそうに話している。
「ですが先輩の白幻素は違います。先輩は他の幻素を白幻素に"塗り替えている"。本来こんな特性幻素にはないんですよ!!」
「先輩は特別なんです!僕はそんな先輩が大好きなんです!」
ユミルは一言喋るごとに息が荒くなっていく。こいつとは初めて会ったはずなのに、どうしてこんな好かれてるんだ……?
「俺のことをどう思うかは勝手だが、なぜこの子に攻撃をした?この子は関係ないだろ」
「先輩の実力を測るためですよ。先輩は人助けをするときに実力が発揮されると"生徒会長"がおっしゃっていたので」
「……」
「それでは先輩、また会いましょう」
「おい待て!!」
ユミルは本を開き、現れた紫幻素に包まれる。
すると一瞬にして姿を消してしまった。
幻素が漂う世界で生きる @hokuro1215
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