【先ず隗より始めよ】から随分と経っているんですけど?~劇辛は60年も戦い続けて来ました。もう休ませてよ~

信仙夜祭

第1話

「燕王喜さま。趙国が攻めて来ました。国境は、大慌てです! 早急に軍を立ち上げてください!」


 報告を聞いた重臣たちが、ざわめく……。

 攻められる前にさ、外交努力しようよ……。

 まあ、動ける人材がいないのは、理解してるけどさ。


「落ち着け! 負けと決まったわけではない! 我が国にも大将軍がおろう!」


 燕王さまの檄が飛ぶ。

 それはいいんだけど――視線が、儂に集まるのはおかしくない?


劇辛げきしん大将軍! またお願いしたい!」


「「「おおお!! 劇辛殿~!」」」


 そんな期待をされてもね。

 儂……、もう90歳近いのよ?

 60年間戦い続けてるんだけど?

 歯もないんだよ?

 儂は、杖をついて立ち上がった。王様の前に出た。


「そろそろ、若者に任せましょうよ」


「皆、戦場で死亡しているのだ。若い芽が育っていない。そちを置いて他にいない! 断言する! 劇辛殿こそ、燕国の守護者だ!」


「「「おおお!! 劇辛殿~!」」」


 断言するなよ……。

 他国から引き抜けよ。

 儂も、【まず隗より始めよ】で来たんだよ。

 何年前だと思ってんだよ。60年前だぞ?

 その後続けないから、こうなる。

 でも、燕国も貧乏なんだよな~。


 とりあえず、出陣は保留とさせて貰った。

 おしっこ漏れそうだ。



 便所で用を足す。

 ここで、クラっと来た。

 そのまま倒れる。

 手足が動かない。脳溢血かな……。


『あ~。つまらない終わり方だったな~。儂も、戦場で華々しく散りたかったよ……。豊かな老後ってなんだろう……』



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「戦国策……。史記……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。


「「「劇辛さま~!」」」


 部屋には、燕国の重臣が大勢入って来た。

 いや、確認させてよ。五月蠅いのよ。

 老人の見舞にしては、大げさだよね。つうか、病人を静かにしようね。

 とりあえず、全員出て行って貰う。


 医者が、薬湯を煎じてくれた。

 その後、診察を終えて独りにして貰う。

 ベッドから立ち上がり、窓から景色を見た。

 さて、やっと確認だ。


「儂……、劇辛なんだよな。ネタで、【まず隗より始めよ】……『遠大な事業や計画を始めるときには、まずは手近なところから着手するのがよい。また、物事は言い出した者から始めよというたとえ』って意味だけど、実際は金に釣られて雇われたやられ役……。ヤバくね?」


 もうすぐ、趙国が攻めて来る。李牧りぼくだよ。

 そんで負けて、来年には龐煖ほうけんだ。

 儂は、そこで死亡する。

 自分の手を見る。


「なんで、転生先が90歳の爺さんなんだよ……。おかしくね?」


 ここは、10代か、せめて30代じゃない?

 楽毅がくきと一緒に斉国攻めるとかさ。斉国を滅亡に追いやる前とかじゃないの?

 某有名漫画だと、どう見ても40代だったけど、セリフで「60年の戦績を~」とか言ってたし。(げふん、げふん)


 どうすっかな~。



「……逃げるか?」

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