勘違いしないでください!

青空一夏

前編

「僕と結婚しておくれよ。一生マドリンを大切にするよ」


「でも、私のお父様は一代貴族のバーンズ男爵ですよ。ケントンは名門貴族と名高いサマーズ伯爵家の令息ではありませんか。身分が釣り合いませんわ」


「僕はそんなこと気にしないよ。二人で幸せになろう」


 私はケントンにそう言われて、嬉し涙を流しました。朝起きると大好きな男性が隣に寝ているなんて夢のようでした。食事の時も仲良く手を握り合って、お互いの目を見つめ合いながら、寄り添って食べます。毎日が夢のようでした。




 ケントンはサマーズ伯爵家の事業を手伝っています。毎日決まった時間に家をでて、決まった時間に帰ってくるという規則正しい生活が続きます。私たちは一緒に料理をしたり、お買い物に出かけたりと、毎日を仲良く暮らしておりました。


 ところが、ケントンの兄スティーブが結婚をしサマーズ伯爵家を継いだ頃から、義兄嫁と私を比べるようになりました。義兄嫁はローラーといい、ブリジット伯爵家の次女でした。ブリジット伯爵家も名門貴族です。それに、ローラはとても美しい女性でした。


「ローラさんはいつも綺麗だし、マドリンみたいに手だって荒れていないよ。指だってほっそりしてて、体つきも華奢だしさ」


「確かにそうね。手だけじゃなくて顔もとても綺麗だと思うわ」


「うん。マドリンもそう思うよね。だったら、見習ってね」


「そうね。私もローラさんみたいに綺麗になりたいわ」


 私はにっこり笑いました。ローラさんは女性の私から見ても、とても綺麗で優雅でしたからね。ケントンが憧れるのもわかります。


 


 それからも、ケントンのローラさん自慢は続きました。毎日のように聞かされてうんざりしていたある日、ケントンは練り白粉と唇に塗る紅を持ち帰ってきたのです。


「なぁに? これ」

「マドリンにあげるよ。使ってみてよ」


 練り白粉も紅も残りわずかで、明らかに誰かの使いかけのようでした。


「これは、誰が使ったものなのかしら?」

「ローラさんからもらったんだよ。マドリンもローラさんみたいに綺麗だと良いのに、って言ったらこれをくれた。新しいものを買ったから、ちょっとしか残っていないけどあげるって。とにかく、使ってみてよ。きっと、綺麗になれるよ」


 私は言われるままに、ローラさんの化粧品だったものを使います。


「うーん。やっぱり違うなぁ。マドリンとローラさんじゃ、顔のつくりが違いすぎたよ。同じ化粧品を使っても、やっぱり、ダメなんだなぁ」


 今まで抑えこんでいた腹立たしい気持ちがこみあげて、もう私は我慢することができません。


 私、もう限界です!


 「ケントン! あんたって、いったい何様なのよっ!」

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