第7話 月の綺麗な夜に

「ここの支払いは、いいですよ。俺が出します。」


と、望月が言った。


「いや、でも…。」


「いつも話を聞いてもらってるんで。気持ちです。」


年下の先輩という関係で難しいところもあったが、好意に甘えることにした。




バーを出て、階段を上がっていた。

今日はスーパームーンとやらで、月が大きく見えるらしい。

地下の踊り場から地上が見え、雲もなく、晴れ晴れとした夜空が見えた。


さらに階段を上がろうとした時だった。

強い力で腕を掴まれ、後ろに引っ張られた。

体が踊り場の壁に押しつけられる。



望月がキスをしてきた。


キスなんて可愛いものじゃなかった。

唇や舌をむさぼり喰われているようだった。


それでいて望月の唇は柔らかく、どちらが自分の唇でどちらが望月の唇かわからない。


2人の唾液が絡む音、乱れた息が階段に響く。


時々、唇の表面を強く吸われた。

まるで望月の獲物としてマーキングされたかのようだ。


どれくらいキスをしていたのだろう。

短かったのか、長かったのかもわからない。


次第に望月の唇が離れた。



早坂は息を上げながら、唾液で濡れた口元を手の甲で拭った。

望月も息は乱れていたものの、いつもと変わらない、青白く輝く月のような美しさだった。



「早坂さん…悪くなかったでしょ?俺とホテルに行きましょうよ。」


望月は平然と言った。



「む、無理だ、俺には…。勘弁してくれ…。」


俺は望月から目を逸らした。

怖かった。

男に力づくで屈服させられたことが。



「…そうですか。残念です。抵抗しなかったから、いいかと思ったんですけど。」


望月は自分のシャツの襟を直した。



「気が変わったら、いつでも言ってください。」


望月はそれだけ言って、階段を登って行った。

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