それゆけ善徳商人越後屋利平!

カティ

第1話 賄賂

「お主も悪よのぅ。」

「お奉行様にはかないますまい。」

「わはは・・・」


えー、わたくしは越後屋という屋号で商売をしている利平と申します、現在絶賛賄賂を渡している最中にございます。


時は戦国、群雄割拠する時代において商売で生きていくのは綺麗事だけではすみません、頭を地面に擦り付け、泥水を啜りながらでも親から受け継いだ店を守る為に必死に今日を生きるのです。


今、賄賂を渡しているのは、越後の長尾家重臣である中条藤資様、当商店が取扱う武具を大量に購入して頂くために接待をしている最中です、まあ黄金色の饅頭のお陰で商談は成立、これにより当店が抱える職人達に仕事を回すことができる・・・ように思えたが。


「藤資!!」

「こ、これは、景虎さま!!」

長尾家当主長尾景虎が踏み込んで来て状況が一転する。

藤資は即座に平伏す、それに習い俺も平伏す。


「貴様!商人風情から金を受取り口利きをするなど武士として恥ずかしいとは思わんのか!」

潔癖な所が見え隠れする長尾景虎に取って賄賂を受け取るなど武士としてあるまじき行為なのだろう、怒りのまま接待に用意していた御膳を蹴り飛ばす。


「景虎様、これは・・・この商人が勝手に持ち込んで来た物にございます、私としては如何に返すか頭を悩ませて居た所にございます。」

藤資は事もあろうに俺を切り捨てて自らの保身に走っていた。


「藤資様!それは御無体なお話にございます、私は藤資様がお望みになられたからこそご用意致した次第にございます。」

この賄賂とて商売をするに当って要求されていたのだ、梯子を外されては景虎様の怒りが全てこちらに向いてしまう、それだけは避けなければならない。


「黙れ!見苦しいぞ、藤資。

だがそなたは長年の功績により今回だけは目を瞑ってやろう。」

「有難き幸せ、今後の武勲にて返させてもらいましょう。」

藤資は長年仕えていた事もあり許される流れが出来ている、だがただの商人であり、その商人としても新参者な俺は・・・


「そこの商人よ、貴様は家財差押さえといたす!」

「なっ、それはあまりに御無体なお話ではありませぬか!」

「黙れ!誇り高き武士の魂を金子で汚すような真似をしおって!

家財差押さえが嫌だと言うならその首を斬り落としてくれる!」

「お許しくださいませ!!」

俺は地面に頭を擦り付け命乞いをする。


「ふん!こいつを牢に入れておけ、その間に家財を差押さえるのだ!」

こうして俺は祖父の代から受け継いできた店も財産も失ってしまったのであった・・・

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