第5話 のんびり

 森を歩くこと数時間。

 ゆっくりと森の中を進み、ドトナさんの杖トークが落ち着いた頃。


「バッグ重いですよね。持ちましょうか?」

「いえ、自分の荷物なので自分で持ちます。

 これも修行の一環だと思えば」


 まあ、そうだよな。会ったばっかの相手に荷物預けるのはリスクあるし不用心だよな。

 それでもドトナさんが荷物を持ってるのに俺は手ぶらだからなんか、申し訳なさがある。


 ドトナさんの呼吸も乱れてきたし、上手く休憩を取りながら森を歩く。



 そんな感じで五日経った。

 何も無さすぎて、毎日ただ真っ直ぐ進むだけで正直刺激が足りない。


 あんなでかい動物、いや魔物がいるんだからもっと出てきて欲しい。指が疼く。


 猪、熊、狼、こんな所かな。


 そんなことを考えてたら前方の方が何やら騒がしい。


「ちょっと見てきますね」

 ドトナさんに確認を入れて、音のした方に走って向かう。


 結構騒がしいからまた猪とかが暴れてんのかな。

 それだったら久しぶりの肉が手に入る。


 口の中の飴玉(謎)をころっと転がして意気揚々と確認する。

 茂みに隠れてそっと確認すると猪が真っ直ぐこっちに向かって走ってた。


 またかよ。猪ってこんなに走ってるもんなのか。


 すぐにドトナさんの元に戻って報告する。


 久々の狩りだ。

「試しに俺が近づくまで魔法撃ってみてもいいですよ」

「やってみます」

 ドトナさんの魔法の修行にもなるし、獲物が出ると一石二鳥だな。


 そして、ここからでも木々の隙間から猪が見えるまで近づいてきた。



 ドトナさんは強張りながらも杖を構えて集中する。

 緊張で杖の先が震えてる。その真剣な眼差しで猪を捉える。


「い、いただきますっ!」

「なぁんでぇ!?」

 まさかの狩る前にいただきます宣言。これは仕事人だ。必ず仕留めるって隠語かな。


「す、すみません。狩りは初めてなので緊張して気が動転してしまいました。

 決して食い意地が張った訳じゃないですよ!」

 自分でも思いもよらない言葉が出たらしい。

「それだけ喋れるなら、大丈夫でしょう」

「はい、落ち着きました。私に構わず行ってください!」


 杖の先が光出したのを見て、俺も走り出す。


「えぃっ!」

 後ろから気の抜けるような弱々しい声が聞こえると、水の球が俺を抜き去って猪の方に飛んでいく。

(ビュンっ)


 やっぱ魔法ってすげぇ。

 人じゃ追いつけない速度で飛んでいく魔法に思わず関心してしまう。


(ジュっ)

 水の球は惜しくも猪の横を通り過ぎ、木の幹に穴を開けた。



(ビュンっ!ビュンビュンっ!)


 さらに何個か、驚くほどの連射速度で水の球が打ち出された。


(まじか)

 しかしそのどれもが、猪にかすることなく手前の木に当たったり、猪の横を通り過ぎたりしてしまう。


 ついに目前に迫った猪。


 正面から突っ込んでくる猪に対して俺も正面から受け止める。


「ブモォォオ!!」

 どけどけぇ!と言わんばかりの咆哮を上げてさらにスピードを上げる。


「かかってこいやぁ!!」


(ズゥンっ!!)


 重低音のぶつかりが森に響く。


 猪の頭をしっかりと右肩で受け止める。

 その程度の踏ん張りじゃ足りねぇよ!鍛え方が足りねぇなぁ!


 力を入れ直し押し返す。

 すかさず生まれた隙間を利用して右拳を猪の鼻の穴に突っ込んで持ち上げる。


「どぉりゃ!」


(ズドゥン!!)

「ブフォッ!!」

 投げられた猪は大地が割れんばかりの勢いで地面に後頭部を叩きつけられた。


「ふんしゃ!」

 ひっくり返った猪は足掻くが、起き上がる前にナイフを首に突き刺して事切れた。


「ブォ……」

 暴れ回っていた猪は大人しくなった。



「お、驚きました。まさかこんな戦い方をするとは…」

 走って駆け寄ってきてくれるドトナさん。息を切らしながらも、興味は俺の戦い方へ。


「?素手なんですから、これくらいしかできないですよ。ははは」

「そ、そうですか」

 眼鏡のブリッチを指で押し上げる。


「それよりもドトナさんの魔法凄いですね。

 あれだけ連続で撃てるなんて」

 あんなに撃てるならちょっと狙いが外れても当てれそうだけどな。


「これくらいなら当たり前ですよ。相手を近づけさせずに倒すのが魔法の基本ですから。

 相手を近づかせる魔法使いなんていませんよ。なので近接攻撃しか無いキュロウさんは魔法とすこぶる相性が悪いと思います。

 魔法使いにとって、魔法を使えない相手はカモですからね。


 それこそ魔物みたいに一方的に倒されます。

 魔法使いには寄らない、寄らせない、手出しさせないの三原則があるくらいですから」


「そりゃ大変だな。なおさら魔法使いとの戦いを早く経験しておきたい。

 そのためにもドトナさん…お願いします。

 いくらでも的になりますから」

「は、はい」

 若干引かれてるけど、これはちゃんとwin-winの関係だから。


「威力はバッチリなんであとはどう当てるかですね。そこに焦点を当てていきましょう」

「はい」

 丁度よく食料も手に入り、驚く程順調に、俺とドトナさんの旅は始まった。

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