ヴィルヘルミナ対ベンティンク悪徳王家

 ヴィルヘルミナ達革命軍はベンティンク家逃亡を阻止する為に港へ向かった。その途中、ベンティンク家派閥の貴族達を続々と捕らえていた。

「コーバスさん、ヴィルヘルミナ様! 悪徳王家派閥の貴族達の大半を捕らえて投獄しました!」

 革命軍の一人からそう報告を受けたヴィルヘルミナ。気を引き締めつつも、口角を上げた。

(着実に進んでいるわ。このまま突き進む!)

「ミーナ、この馬に乗って港まで急ごう。この馬は俊足だから、きっとベンティンク家よりも先回り出来る」

 マレインはヴィルヘルミナに馬を引き渡す。

「ありがとうございます、マレインお義兄にい様」

 ヴィルヘルミナは馬に乗り、港へと急ぐ。

 太陽の光に染まったようなブロンドの長い髪を後ろで一つに束ね、軍服姿のヴィルヘルミナは様になっていた。

 マレインも馬に乗り、ヴィルヘルミナの後をついて行く。






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 港から少し離れた場所にて。

 比較的小さくて地味な馬車が物凄いスピードで駆け抜けていた。

「早く着かぬのか!?」

 馬車の中から怒鳴り声が聞こえた。アーレントである。

「も、申し訳ございません。これが精一杯のスピードでして」

 御者は怯えながら肩をすくめる。

「先を行くヨドークスとブレヒチェとも早く合流せねばならんのだ!」

 アーレントはそう怒鳴り散らす。

 現在この馬車に乗っているのはアーレントとフィロメナ。

 逃亡の際、大きな馬車では目立つ。よって二人乗りの馬車を二台使用しているのだ。ヨドークスとブレヒチェはアーレント達の先を行っている。

「本当に役立たずね。首にしてやりたいところだけど、御者は貴方しかいないから勘弁してあげるわ」

 フィロメナも不満を露わにしていた。






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 颯爽と馬を走らせるヴィルヘルミナ。

(さあ、ベンティンク家の者達が港へやって来るまでに間に合わせないと!)

 力強い表情で前を見据えるヴィルヘルミナ。

「ミーナ、もうすぐ港だけれど、無理してない?」

 後ろからマレインの声がする。

 ヴィルヘルミナはその声に表情を少し柔らかくした。

「大丈夫ですわ、マレインお義兄様。……必ずベンティンク家を捕らえます!」

 タンザナイトの目は、ただひたすら未来を見ていた。

「兄上が僕達よりも先に港へ着いているはず。彼らが港を封鎖しているはずだから、悪徳王家はもう逃げられない」

 マレインも、クリソベリルの目を強く未来へと向けた。


 いよいよ港に辿り着いたヴィルヘルミナ達革命軍。

「ミーナ、来たか。もう港は封鎖済みだ」

 ニヤリと笑うのは先に港まで来ていたラルス。これで船で国外逃亡は不可能になった。

「ありがとうございます、ラルスお義兄様」

 ヴィルヘルミナは満足げに微笑んだ。

「後は悪徳王家をぶちのめすだけだが、気を引き締めろよ」

「ええ」

 ヴィルヘルミナはラルスの言葉に頷いた。

「コーバスさん、武器の準備は?」

「ああ、出来てるぜ。こっちは任せとけ」

 ヴィルヘルミナの問いに、コーバスはニヤリと笑い、銃を見せる。

「頼りにしておりますわ、コーバスさん」

 ヴィルヘルミナはふふっと微笑んだ。

「ミーナ、向こうから何か来る」

 マレインが示した方向から、地味で小さな馬車が勢いよくこちらへ向かって来ていた。

「あれは……」

 ヴィルヘルミナは馬車を凝視する。王宮で見たことがある馬車だった。

「ベンティンク家の馬車よ!」

 ヴィルヘルミナは周囲にそれを知らせた。

「いよいよ来やがったか……!」

 コーバスは馬車に銃を向け、チラリとヴィルヘルミナに目配せをする。ヴィルヘルミナは頷いた。

 するとコーバスはタンザナイトの目を細め、狙いを定めて銃を撃つ。

 パーン! という音と共に、馬車の車輪が外れた。

「な、何事だ!?」

「どうなってるのよ!?」

 馬車から出て来たのはヨドークスとブレヒチェ。

(二人ずつに分かれて港で合流する予定だったのね)

 ヴィルヘルミナはゆっくりと二人の前に向かう。

「ヴィルヘルミナ……! この売国奴が……!」

 忌々しげにヴィルヘルミナに目を向けるヨドークス。ブレヒチェは革命軍の怒気に怯え?ヨドークスの後ろに隠れている。

わたくしはこの日の為に王太子妃になりましたのよ。……ベンティンク家からドレンダレン王国を取り戻す為に!」

 ヴィルヘルミナはサーベルを手に取る。

「女のお前がこの俺に勝負を挑むのか。……良いだろう! 今すぐ革命軍もろともぶちのめしてやる!」

 ヨドークスはニヤリと口角を上げ、サーベルを構えたと思いきや、すぐにヴィルヘルミナに斬りかかろうと向かって来た。

 ヴィルヘルミナはそれを華麗に避ける。

(わたくしは戦いの為の剣術は習っていないわ。だけど……!)

 ヴィルヘルミナは姿勢を低く構え、向かって来るヨドークスの脚を攻撃した。

 それにより少し怯むヨドークス。隙が生まれた。ヴィルヘルミナは咄嗟に距離を取り、コーバスに目配せをした。

 すると、パーン! と銃声が響く。

「ぐっ……!」

「ヨドークス様!」

 脚を撃たれたヨドークスは苦悶の表情を浮かべている。ブレヒチェはヨドークスに駆け寄った。

「ヴィルヘルミナ様……どうしてこんなことをするのですか!? どうして私達の生活を脅かすのよ!?」

 キッとヴィルヘルミナを睨むブレヒチェ。

「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ。ベンティンク家の方々こそ、民達の暮らしを脅かしておりましたのよ。民あってこその王族、貴族ということがお分かりになっていないようですわね」

 ヴィルヘルミナはヨドークスとブレヒチェに冷たい目を向けている。タンザナイトの目は絶対零度よりも冷たい。

「さあ、捕らえなさい」

 ヴィルヘルミナの命令により、ヨドークスとブレヒチェは呆気なく革命軍に捕えられた。

「ミーナ、後はアーレントとフィロメナだけだね」

「同じような馬車がこっちに向かって来てる情報があるぞ」

 マレインとラルスの言葉にヴィルヘルミナは頷く。

「ええ。同じように、アーレントとフィロメナも捕らえましょう」

 ヴィルヘルミナはアーレントとフィロメナが乗っている馬車の元へ向かう。

「おい、あんたもこれ持っておけ」

「ありがとうございます、コーバスさん」

 ヴィルヘルミナは途中、コーバスから銃を受け取った。


 アーレントとフィロメナが乗っている馬車は既に革命軍に囲まれて身動きが取れなくなっていた。アーレントはフィロメナと共に仕方なく馬車から出て逃亡を試みている。ヴィルヘルミナは少し遠くから銃の狙いを定める。

(脚を撃てば、間違いなく動けなくなって逃亡出来なくなるわ)

 ヴィルヘルミナは躊躇なく銃を撃った。

 パーン! という音と共に、アーレントは脚を押さえて悶絶する。見事に命中したのだ。

 こうして、アーレントとフィロメナも呆気なく革命軍に捕えられたのである。


 全ての元凶を捕らえることが出来たので、ヴィルヘルミナは少し肩の力が抜けた。

「ついに、ベンティンク家を捕らえることが出来たのね……!」

 ヴィルヘルミナの胸には込み上げてくるものがあった。

「きっとヘルブラント国王陛下とエレオノーラ王妃殿下も浮かばれるだろうね」

 マレインはヴィルヘルミナに優しい笑みを向ける。

「そうだと良いですわね。だけど、これで終わりではなく、ここから始まるのですわ。かつてのドレンダレン王国を取り戻します」

 ヴィルヘルミナは力強く微笑む。


 その時、何者かがヴィルヘルミナに向かって発砲した。ベンティンク家派閥の貴族がまだ残っていたのだ。


「ミーナ!」

 マレインは咄嗟にヴィルヘルミナの前に庇い出る。

 そこからはまるでスローモーションのようだった。

 ヴィルヘルミナは、何が起こったのかを理解するまで少し時間を要した。


 ドサリと倒れるマレイン。ヴィルヘルミナは咄嗟にマレインを支える。ヴィルヘルミナの手には血がベッタリと付着した。

(血……誰の血なの……?)

 ヴィルヘルミナは背筋がゾクリとする。

「ミー……ナ……。良かっ……た……君が……無事で……」

 マレインはヴィルヘルミナにいつもと変わらない優しい笑みを向ける。

 ヴィルヘルミナは嫌でも理解した。自身の手に付着した血は、間違いなくマレインのものであると。

 マレインはヴィルヘルミナを庇い、胸部を撃たれていた。

「マレインお義兄様……!? そんな……!?」

 ヴィルヘルミナの呼吸が浅くなる。

 マレインはゆっくりと瞼を閉じた。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その場にヴィルヘルミナの叫び声が響くのであった。

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