サスキアの正体

 王宮侍女サスキアに革命推進派の集会に参加していたことがバレたヴィルヘルミナとラルス。完全にピンチである。

(どうしよう……)

 目の前が真っ暗になるヴィルヘルミナ。ふと、かつて見た公開処刑の様子を思い出す。


 ありとあらゆる拷問を受け、顔の原型を留めない程ただれた令嬢。そんな彼女に容赦なく断頭台ギロチンの刃は切り落とされ……。


(わたくしが革命推進派に肩入れしているのがサスキアにバレたせいで、マレインお義兄にい様、ラルスお義兄様、お義父とう様、お義母かあ様が……)

 自分よりも家族が殺される恐怖が勝っていた。ヴィルヘルミナは顔面蒼白になり、立っている力すらなくなる。マレインはそんなヴィルヘルミナを強く抱き締め、キッとサスキアを睨む。

(僕は……ミーナを守る為にここにいる! サスキアが悪徳王家派なら……!)

 マレインは覚悟を決め、隠し持っていた短剣を握るが……。

「マレイン卿、私を殺すのはこの話を聞いてくださった後でもよろしいかと存じますわ」

 サスキアは余裕そうな笑みであった。

「……は?」

 マレインは怪訝そうな表情である。

 サスキアはゆっくりとヴィルヘルミナに近付く。

「王太子妃殿下も、落ち着いてください。私はベンティンク家などに忠誠を誓った身ではございませんから。貴女方が革命推進派の集会に参加していらっしゃることは知っていますが、決して口外はいたしません」

 サスキアは優しく微笑み、ヴィルヘルミナの背中をさする。

「サス……キア……」

 ヴィルヘルミナはほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。

「サスキア、ベンティンク家に忠誠を誓っていないとはどういうことかな?」

 マレインは警戒しながらそう聞いた。

「それに関しましては、ここではなく落ち着いた場所でお話ししましょう。この近くにの拠点がございますので」

 サスキアはふふっと妖艶な笑みだった。






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 ヴィルヘルミナとマレインがサスキアに連れて来られた場所は、裏路地にあるこぢんまりとした何の変哲もない家だった。

「さあ、どうぞお掛けになってください」

 サスキアはヴィルヘルミナとマレインに座るように促した。そしてこの家にいる者が、二人に紅茶を用意する。

「毒は入っておりませんのでご安心ください」

 王宮にいる時とは違い、優しい笑みである。ヴィルヘルミナも落ち着きを取り戻し、「それで……」と口を開く。

「サスキア、貴女の目的は何なのかしら?」

 ヴィルヘルミナは探るようにサスキアを見つめる。

 するとサスキアは一通の手紙をヴィルヘルミナに渡す。

「これは、私が忠誠を誓っている方から王太子妃殿下へのお手紙でございます。王太子妃殿下はナルフェック語の読み書きは出来ましたよね?」

「ええ……。ナルフェック語だけでなく、近隣諸国の言語の読み書きは一通り出来るわ」

 ヴィルヘルミナは少し怪訝そうな表情で手紙を受け取る。そして封筒に刻まれた紋章を見てタンザナイトの目を大きく見開く。金色に縁取られた紫の薔薇の紋章である。

「これは……ナルフェック王国のロベール王家の紋章……!」

何故なぜナルフェック王国の王家が!?」

 マレインもクリソベリルの目を見開いて驚いている。


 ドレンダレン王国の南側に隣接するナルフェック王国。伝統と革新のバランスが取れており、医療や科学技術が発展した国である。そして世界の覇権を握っているとも言われているのだ。


 ヴィルヘルミナは視線をサスキアに戻す。

「サスキア、一体どういうことなの? 貴女はナルフェックの王家とどういう関係があるの?」

 するとサスキアは妖艶な笑みを浮かべて口を開く。

「私は、ナルフェック王国……ロベール王家の諜報部隊の一員でございます」

 その言葉に驚愕するヴィルヘルミナとマレイン。

「お二人には私の正体やナルフェック王国の諜報部隊のことを話しても良いと女王陛下から許可が下りていますわ。当然ながら、サスキアという名前も偽名でございます」

 ふふっと笑い、言葉を続けるサスキア。

「ナルフェック王国の女王陛下のご命令で、私はドレンダレン王国の様子を偵察しておりましたの。やはり、ベンティンク家や彼らの派閥の者達は醜怪しゅうかいでしたわ」

 サスキアは呆れながらため息をついた。

「ですが、王太子妃であられるヴィルヘルミナ様は、醜怪なベンティンク家や貴族達とは違うと感じました。それを女王陛下に報告したところ、貴女様の様子を見極めるよう命じられました。それが昨年の話でございます」

「そう……だったのね……」

 ヴィルヘルミナは驚きながらそう呟いた。

「王太子妃殿下が革命を起こしてドレンダレン王国を変えようとしていることに気付くのには、かなり時間がかかりましたわ王太子妃殿下は警戒心がお強く、マレイン卿のガードも堅かったので」

 サスキアは苦笑した。

「簡単に知られるわけにはいかないからね。色々と……」

 マレインも苦笑する。

「ですが、王太子妃殿下がこうしてドレンダレン王国を変えようと動いていらして安心いたしましたわ。さあ、女王陛下からのお手紙をお読みくださいませ」

 サスキアはふふっと笑い、ヴィルヘルミナに手紙を読むよう促した。

 手紙を読んだヴィルヘルミナはタンザナイトの目を大きく見開く。

 革命に協力する旨が書かれていたのだ。

「サスキア、本当にナルフェック王国の女王陛下にご協力していただけるの……!?」

 信じられないとでも言うかのような表情のヴィルヘルミナ。隣でマレインも驚愕している。

「ええ、その通りでございます。その為にも、王太子妃殿下にはナルフェック王国に来ていただきますわ」

 サスキアは妖艶な笑みを浮かべていた。

 まだ少しの懐疑心を持ってはいるが、思わぬ協力者を得たヴィルヘルミナであった。

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