マレイン対ラルス
ヴィルヘルミナは一時的に南京錠付きの部屋から出されて、庭でマレインとラルスの対決を見守ることになった。
「ラルス様とマレイン様の対決ですか。お二人共何やら本気なご様子ですね」
二人の対決の審判はエフモント公爵家の執事が行う。
(お
ヴィルヘルミナはギュッと拳を握る。
「両者構え!」
執事の声に、ラルスもマレインも
「手合わせ開始!」
戦いの火蓋は切られた。
ラルスとマレインは激しく
「マレイン、お前はどういうつもりだ!? ミーナを解放!? お前はミーナを死にに行かせるつもりか!?」
凛々しくも険しい表情のラルス。ラピスラズリの目からは怒りが
(ラルスお義兄様……)
ヴィルヘルミナは少し苦しそうな表情である。
「絶対にミーナを死なせませんよ! 兄上こそ、ミーナの自由を奪って、それで守っているつもりですか!?」
マレインも声を荒らげる。そして攻めの姿勢に入る。
(あんなマレインお義兄様……初めてだわ)
ミーナは普段の穏やかさからは想像がつかないほどの激昂っぷりのマレインに驚き、タンザナイトの目を大きく見開いていた。
「ああ! これが最善なんだよ! ミーナの為だ!」
「嘘だ!」
「なっ!」
ラルスはマレインの言葉に一瞬動揺する。
「兄上がしていることは、ミーナの為ではなく自分の為ですよ!」
マレインは強く
「お前に何が分かる!? 父上も母上もいつまでもいてくれるわけじゃない! そうなったら、ミーナを守れるのは俺しかいない! ミーナは俺の目の届く範囲にいるべきなんだ!」
ラルスは思いっ切り強く
(ぐっ……! やっぱり兄上は強い。だけど、負けるわけには行かない!)
マレインは表情を歪める。
その時、ふと七年前、ヴィルヘルミナの出自が判明した時のことを思い出した。
マレインはラルスと共に逃げ出したヴィルヘルミナを見つけた時のこと。その時、マレインは当時のヴィルヘルミナ本心を聞いていた。
『違うの……』
『ん? ミーナ、何が違うんだい?』
『本当は……』
ヴィルヘルミナは震えながら言葉を続ける。
『
(そうだ! ミーナはそういう子だ! 自分が殺されるのが怖いからじゃなくて、僕達家族が殺されることを恐れて泣いていた! この国を変えたい理由も、きっと僕達が殺されずに安心して暮らせる為でもあるんだ! 僕は……そんなミーナを……好きになったんだ!
マレインは深呼吸をし、ラルスからの攻撃を防ぐ。
「兄上はミーナを人形扱いしているじゃないですか! ミーナは……ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・エフモントは意思を持った一人の人間だ! ミーナはただ守られるだけのお姫様じゃない! 自分の力で戦うことが出来ますよ!」
マレインはキッとクリソベリルの目を鋭くする。
(マレインお義兄様……!)
ヴィルヘルミナはマレインの言葉に、何だか泣きそうになった。悲しさではなく、認めてくれている嬉しさがじんわりと込み上げてくる。
(ラルスお義兄様が
ラルスに感じていた胸の
(先程……部屋に閉じ込められていた時も、マレインお義兄様は
ヴィルヘルミナはマレインへの気持ちを自覚した。
マレインは攻めの構えになる。
「僕は、ミーナが進む道を信じて彼女の支えになりたいんだ!」
一直線にラルスを目掛けて
ギィィンと今までの中で一番強い金属音が鳴り響く。マレインの
ラルスは膝から崩れ落ちる。
「そこまで!」
執事の声が響き、二人の勝負は終わる。
マレインが勝ったのだ。
ラルスとマレインは力尽きているようで、お互いその場で呆然としていた。
「マレインお義兄様、ラルスお義兄様」
ヴィルヘルミナは二人の元へ駆け寄る。
「ミーナ……」
マレインはクリソベリルの目を優しく細める。その表情を見て、ヴィルヘルミナの心臓はトクリと跳ねる。
その隣で「ぐっ」と呻き声を上げ、ラルスはゆっくりと立ち上がる。ヴィルヘルミナはハッとラルスの方を見る。
「ラルスお義兄様、お怪我は」
「ミーナ、良い。大丈夫だ」
ラルスは片手でヴィルヘルミナを制し、フッと乾いた笑みを浮かべる。
「ラルスお義兄様……お義兄様がずっと
ヴィルヘルミナはそっとラルスの手を握る。
「ですが今、民達が怯えて、苦しんで生活している中で、
ヴィルヘルミナのタンザナイトの目からは覚悟が見えた。
「ミーナは……そうだよな。……昔から、誰かの為に、正義感が強くて真っ直ぐ突っ走る。……すまない、ミーナ。俺は……俺のエゴでお前を縛りつけようとしていた」
ラルスはヴィルヘルミナの手をゆっくりと払い、力なく笑った。そしてマレインを見る。
「マレイン、俺の負けだ。昔は俺の後をひたすらついて来てた癖に、お前いつからそんな格好良い男になったんだよ?」
フッと笑うラルス。憑き物が落ちたような表情だ。
「兄上……」
マレインはクリソベリルの目を見開く。
「ミーナが進む道を信じて、お前がミーナを側で支えてやれ」
凛とした表情のラルス。ラピスラズリの目には力が込もっていた。
「はい!」
マレインは力強く頷いた。
こうして、本心をぶつけ合った三人の絆は更に深まるのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日の夜。
ラルスは
(俺は……ミーナのことを
その結果、ラルスはヴィルヘルミナを監禁してしまった。
(でも、あんなことをしてしまって……俺にはもうミーナの隣に立つ権利はないも同然だな)
ラルスはフッと自嘲する。
(俺は臆病者だ。ミーナが俺の目の届く範囲からいなくなるのが怖かった。だから、俺の側に置いておくことで、守っているつもりになっていたんだ……)
ラルスは寂しげにため息をつく。
(マレインは凄いよな。俺と同じであいつもミーナのことを
ラルスはフッと笑った。
「マレイン、ミーナを側で支えてやってくれ。俺は……離れた場所からミーナを見守ることにするから」
ポツリと呟いた言葉は、夜の闇にスッと消えていった。
その後、
こうして、ヴィルヘルミナが王太子ヨドークスの婚約者となった、そして二年に渡る王太子妃教育の末、ヴィルヘルミナはヨドークスと結婚し、王太子妃になるのであった。
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