002 罰
氷太朗は魄が蹴り飛ばされた方向に向かって跳んでいると、下方から何かが飛んできた。瓦礫だ。
空中で身体を捻り大きく回転し、瓦礫を躱す。そして着地をすると、丁度目の前に魄が立っており、対峙する形となった。
「GUUU……GAAAAAAAAAA‼」
「………」
獣のように牙を剥き、涎を垂れ流しながら吠える自分を見ているのは、決して気持ちの良いモノではない。反吐が出そうなくらい不愉快だ。正直に言って、目を背けたい。だが、そんな事を言っていられる段階ではもうない。
目の前の化け物を含む一連の不可解な事象の原因が『彼女』ならば――氷太朗はもう逃げてはいけない。
逃げずに、立ち向かわなければならない。
それが唯一の
「ツケを払ってやる……ッ!」
先手を取ったのは氷太朗である。
神足通を用いて高速で懐に入り、前蹴りをする。凄まじいスピードだ――普通の人間ならば、対処できずに鳩尾を貫かれて死んでいただろう。だが、魄はそうはならなかった。咄嗟に掌で壁を作り、蹴りを受け止めた。やはり
氷太朗は、受け止められた脚を軸に、回転蹴りをする。これも、神足通によって強化されているので、強烈なスピードだ。しかし、これも躱された。
次は魄のターンであった。魄は氷太朗の足を持った手を大きく振り上げ、氷太朗を地面に叩きつけた。それも、一度だけではない。何度も何度も叩きつける。
そして、蹴り飛ばした。
「うわああああ……ッ!」
風に吹かれて砂漠を転がるタンブルウィードのように瓦礫の上を転がる氷太朗に――魄は、止めと言わんばかりに斬りかかった。
氷太朗は咄嗟に身体を起こして避けた。刃は完全に避けられたが、何故か肩が裂け、血が噴き出した。
「まさか……ッ!」
すぐに立ち上がった氷太朗は後ろにジャンプし、一旦距離をとる。それを魄は許さなかった――その場で
いくら
やはりそうか。
最初、刀から衝撃波や超音波の類が放たれているのか思った。しかし、よく見ると違う――
ということは――
だからと言って、近距離戦に持ち込んだ所で、魄の圧倒的パワーに捻じ伏せられる。
何か策を練らなければならない。
「どうすれば……」
地に立った氷太朗は脳を回転させる。勿論、敵が悠長に待ってくれるわけもなく――魄は間髪入れず、
氷太朗は八艘飛びが如く、瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら、エネルギーの塊を避ける。
接近する隙は、残念ながら無い。
やはり、
しかし、どうすれば――
「いや、迷ってる暇はない」
氷太朗は着地をするや否や、腰に差していた脇差を投げた。大道芸の剣投げで磨かれた腕は流石のもので――脇差は一直線に魄に向かっていく。
魄は
脇差は地面に叩き落される。
それで良い。
今は、
「喰らえ……ッ!」
氷太朗は先程同様、地面を蹴って一気に間合いに入りながら、前蹴りをした。
それを受けるのは魄――ではない。
氷太朗は
喉から手が出る程欲してた
姉が血眼になって探し続けている
キィィィィン‼
そんな鋭い金属音が鳴り響き――
「GIIII………AAAAAAAAAAAAAッ‼」
砕け散った
「五月蠅いッ!」
氷太朗は背骨を軸に大きく身体を回転させ――回し蹴りを喰らわせた。
踵が魄のこめかみに接触した瞬間、反対側のこめかみが弾け、大量の血と小さな肉塊が勢いよく噴出した。
「AA……」
魄は紐を切られたマリオネットのように、力なくその場に倒れた。
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