トイレに行きたい!
羽弦トリス
第1話出勤前
朝、5時半。
ベッド横のテーブルの上の目覚まし時計が鳴る。
季節は夏。半袖Tシャツから筋肉質な右腕が伸びて、長い指先で目覚まし時計のアラームを止める。
そして、ベッドに腰掛けて目覚めの一服。
181cmの身長のこの男は、服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。
夏は寝汗をかく。汗臭い男性社員は嫌われる。実際、同期の福田は汗臭く、その上から香水を付けるので、女性社員からは『ドリアン』と、呼ばれていた。
シャワーを浴びて、着替えてパンを焼いた。
そして、その間にフライパンで目玉焼きとベーコンを焼いた。
それをパンの上に乗せて食べるのだ。
時刻は6時15分。
家を7時に出れば、9時始業の会社に間に合う。家から最寄り駅まで歩き電車で30分で会社の最寄り駅に着く。
この男の名前は長谷川亮44歳。
小さな広告代理店の中堅社員である。今日は、クライアントの広告のミーティングが朝の10時から始まる。
長谷川はそのクライアントの担当であり、前日に作った資料のコピーを後輩の竹内あゆみに任せていたが、竹内はまだ入社2年目。
心配だから、今日は6時半には家を出ようと考えていた。
ヒゲを当たり、髪の毛をセットしてトイレに入った。
「うっ!こいつぁ、すんげぇ〜」
と、独り言を言って便座に座る。殆ど水状態。
そうなのだ。
長谷川は、大事な会議、ミーティングと自分が主役になる仕事の日は決まっていお腹を壊すのだ。
長谷川は出し切ってから、出勤しようと思った。腕時計は安物のG-SHOCKが、6時25分を表示していた。
『まぁ、竹内なら大丈夫だろう。後、15分踏ん張って出勤しよう』
長谷川は、以前無理に出勤して大事故になった日があった。
自宅を出て、10分後に下痢に襲われ、帰宅してシャワーを浴び、スラックスを踏み洗いして、洗濯機を2回回した事がある。
その恐怖心から、トイレは出し切って出勤し、出社したら必ずもう一度トイレに行き便座に座るのだ。
「ハァハァハァハァ、もう、出んだろう。てこずらせやがって!」
長谷川は出勤した。
地下鉄の乗り換え駅で、1度トイレに入った。
家であんなに出たのに、ここでも物凄い。
長谷川は額の汗をハンカチで拭いた。
8時半に会社に到着したら、直ぐに本日のミーティングの資料を確認した。
1枚資料が足りない。
良かった。早く来て。コピー機はホッチキスまでしてくれる。
10部用意した。
後から現れた竹内にミスを指摘すると、謝ってきた。
そうこうしていると、9時半。
グルグルッ!グジュグジュッ!
「た、竹内。ちょっとトイレに行ってくる。オレが間に合わなかったら、話しを進めていておくれ」
長谷川は竹内に懇願した。
「先輩も大変ですね。ミスの汚名を返上するためにも頑張ります。ゆっくりトイレで頑張って下さい」
「あ、ありがとう」
長谷川はミーティングを15分遅刻した。
上司には、緊急の案件があったのでそれで遅れたと説明していた。
「では、我々としましては……」
『まだ、本題に入ってないの?早く終わらせようよ』
「気の毒だが、竹内君。君の説明は長すぎる。長谷川君、説明してくれ」
「どこからですか?」
「まず、クライアントのマーケティングの範囲からだ」
「……はい」
長谷川は、またトイレに行きたくなったが、我慢するしか無かった。
無事にミーティングが終わるとトイレに駆け込んだ!
その背中を竹内は見詰めていた。
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