第33話
「どうしたんだ篠崎顔色悪いぞ」
「昨日の夜よく寝れなくてそのせいもあるんだと思います」
どうしてもふとした時に今日の朝の夢の光景が頭の中に蘇ってしまう。
「進藤さん…」
「なんだ?」
今日の朝の夢のことを話しておくべきかと思い名前を呼んだはいいもののなかなか続きの言葉が出てこない。
「いいえやっぱり何でもありません…」
訝しんだ表情を浮かべたもののそうかと言って視線を元の位置に戻す。
この授業が終わったら今考えている可能性を進藤に話すことにした。
頭の中で話をまとめているといつの間にか3時間目の授業が終わりお昼休みの時間になっていた。
「ちょっといいですか?」
何かを悟ってくれたのかどうしたと尋ねてくることもなくただ分かったと言って俺についてくる。
向かったのはこの時間あまり生徒が使っていないグラウンドの奥の方。
隠れていて分かりにくいが座って話せる場所がある。
「篠崎が俺を呼び出すなんて珍しいな」
「すいませんいきなり」
「いやいいよわざわざこうして人目につかないところまで連れてきたってことは話しにくい内容なんだろう」
「ええまぁ…」
俺は小さく深呼吸をした後今考えていることを一通り話す。
「なるほどつまり篠崎の考えをまとめるとこういうことか?」
「紅葉が昔篠崎をいじめてた張本人かもしれないってことだよな?」
「今日の朝夢に見た女子生徒の顔とそっくりだったのでもしかしたらそうなんじゃないかなと思って」
「でも今の雰囲気と全然違うんだろう?」
「はい昔は黒髪ロングであまり今みたいに目立つ雰囲気じゃなかったです」
「人を嘲笑うのが好きな性格で俺は当たり前のように毎日いじめられて笑われてました」
「もちろん俺の思い過ごしって可能性もあると思うんですけどどうしても同一人物なんじゃないかっていう可能性を疑っちゃって」
でも、もし同1人物なんだとしたらあまりにも雰囲気が違いすぎるか。
昔は性格の悪いどっかの令嬢の小学生といった感じだった。
だけど今はふわふわとした感じの茶髪の女の子。
しかも学校の中でとてつもない有名人。
俺のことをいじめていた少女は人の上に立つことが生きがいで人を嘲笑うことが大好きだった。
そういう意味でも別人のように思える。
「だけど俺がいじめられてた女の子と同一人物だと考えると何で初めて会ったのに俺の名前を知っていたのか納得ができるんですよ」
同じ学校の生徒だったと言うなら元々知っていてもおかしくはない。
「もし仮に同1人物だったとしても名前が違うのは赤の他人っていう可能性もあるからな」
「もし言う通り同一人物だったとしてもどうして名前が変わってるのか少し探ってみる必要がある」
進藤がいつになく真剣な口調で言う。
「紅葉と仲のいい女子生徒に何か聞いてみたらわかるかもしれない」
「今から聞いて回るんですか!」
「情報を知っておくならなるべく早い方がいいだろう」
「それはそうですけど」
俺はそう言いながらも進藤の後ろを追いかける。
「でもなんで昔いじめてた俺をいじめるならわかるんですけど、今まで会ったことがないはずの鈴原さんの悪い噂を流したりなんてしてるんだ?」
「まだ紅葉が噂を流した張本人って決まったわけじゃないけど、その鈴原ってやつが何かしたのか何かしらの嫉妬があるのか」
「とにかくそこら辺をはっきりさせるためにも色々と聞いて回ろうぜ」
俺は言われるがままに後ろについていきクラスへと向かった。
「紅葉さんについて何か知ってることがあるかって言われてもな」
「たまに一緒に遊ぶことがある程度で特に親しいわけでもないし」
「あ!」
何か思い出したような声をあげる。
まねきねこのような仕草で耳を近づけろと促してくる。
「紅葉さんこの学校に入ってくる前に離婚したっていう話を聞いたことがある」
「そうですかありがとうございます」
「さっき言ってたことが事実だとすると名前が変わった理由がこれで頷けるな」
「そうですね」
「これ以上情報収集をするのは今日は無理そうだから明日にしようぜ」
次の日。
いつも通り図書館に来て2人で会話をしていると鈴原が一瞬曇った表情を浮かべる。
「鈴原さん大丈夫ですか顔色悪そうですけど?」
俺の言葉を聞きうつむいていた顔をはっと上にあげる。
「なんでもないんです私もよく寝れなくて寝不足になってしまって」
いつもの俺だったらその言葉に頷いてそれ以上は何も突っ込まない。
だが俺は自然とこの言葉を口にしていた。
「とてもそういう風には見えませんけど?」
言うと鈴原は困惑した表情を浮かべる。
「いえ私のこれはただの寝不足ですから気にしないでください」
「ただの寝不足でそんな悲しそうな表情にはなりませんよ」
自分の口からこんな言葉が出てくるなんて言っている自分でも驚く。
「すいません…」
「責めているわけではなくて」
何をやってるんだ俺言いたくないことを無理やり聞き出す必要はないだろう!
それから沈黙の空気が流れる。
その沈黙の空気を破ったのは鈴原だった。
重たい口を開く。
「昨日同じクラスの女子生徒たちにずっと授業しないで図書館で本を読んでるんでしょって言われて」
「もちろんこうして学校にも来てますし事業にもちゃんと出てます」
「私自身存在感もあまりありませんし影が薄いので仕方がないのかもしれませんけど」
鈴原のその精一杯作った笑顔を見て俺は奥そこから怒りが湧いてくるのを感じる。
「そういえば篠崎さんが前に話していた紅葉さんに会いました」
「その人に何か言われたりしましたか!」
俺はその名前を聞いて勢いよく立ち上がり思わず詰めるような口調で聞いてしまう。
「特に私に対しては何も言われてません」
「ただ…」
「ただ?」
「篠崎さんともう関わらない方がいいって」
「なんでそんなことを?」
「私もよく分からないんですけど何でもあなたにとって都合の悪い噂を流してるのはその人だからって言われて」
なんで俺が鈴原さんの悪い噂を流さなきゃいけないんだ。
「他には何かありませんでしたか他の悪い噂を流されたとか」
「すいません、私自身そういう噂話には疎いものでおそらく他にも噂は流れてると思うんですけどその内容までは」
困ったような笑いを浮かべながら答える。
その反応を見る限りたくさん噂自体は流れているんだと思うが俺に心配をかけさせないために笑ってごまかしているんだろう。
「ありがとうございます色々教えてくれて」
「後すいませんでしたまくしたてるように聞いてしまって」
「俺はそろそろ時間なのでクラスの方に向かいますね」
言って扉の方に足を向けたその時!
鈴原に片方の手を掴まれた。
「お願いします今話したことは誰にも言わないでください」
「万が一追うごとになってしまっては困るので!」
「分かりました」
俺は言って椅子に座っている鈴原に目線を合わせるように少ししゃがむ。
「先生とかには言わないようにしますけど俺が個人的に今回の件について調査させてください」
「でも…」
「自分でも勝手なことを言ってるってことは理解してるんですけど、どうしても俺の気が収まらないんです!」
静かな怒りを含んだ口調で言う。
鈴原は諦めたのかそれ以上俺に何も言ってくることはなかった。
そうは言いつつも状況をどうにかしなきゃいけないと勝手ながら思う。
俺は図書館を出て自分の教室に向かう。
この噂を流してる犯人を探すにしてもまだ追い詰められるような証拠を集められてない。
まずはそこからどうにかしないと。
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