第4話
きっといるだろうと思いつつも念のため図書館の中を覗く。
「よし大丈夫いる」
「おはようございます」
俺が扉を開けるとそう声をかけてくれる。
「おはようございます」
俺は鈴原が座っている目の前の席に座る。
昨日どうして顔を曇らせてしまったのかしばらく考えてみたが特に理由らしい理由が思い当たらない。
ここは素直に何で怒っているのか聞いてみるか?
いやそれはダメだ!
ドラマとかでよく理由もわかってないのに謝らないでというシーンを見たことがある。
よく創作物の世界と現実の世界を混同してはならないと言うがこの場合においては混同しても大丈夫だろう。
「あの…どうかしました?」
言葉を投げかけられふとわれに帰る。
「すいませんちょっと無意識のうちに考え事をしてました」
「今日そういえばうちのクラス席決めみたいなんですけど、あんまり怖い人じゃないといいけど」
「俺のクラスはそんな話聞いてませんけどそのうちあるのかな」
もし本当にあるとしたらめんどくさいやつじゃないといいけど。
めんどくさいやつに席の隣になられたりしたら学生生活を送りにくくなる。
と言っても俺の学生生活は誰かと遊ぶ予定なんてないしましてや部活動になんて所属してないから生活を脅かされることはそうそうないだろう。
「昨日またおすすめしてもらった本を読んでみたんですけど面白かったです」
「特に主人公の小さな男の子が同い年の小さな女の子との言葉のすれ違いで悩むところとか」
「その女の子が勘違いをしていただけだって気づいた時の表情の描写がすごく細かくて面白かったです」
あまり文芸小説は普段読まないはずなのだが、かなりスラスラと言葉が出てきたことに自分で驚く。
いきなり本のことについてこんなに語って気持ち悪いと思われなかったか?
静かな沈黙が空間を包む。
一瞬だけ口元が本に隠れていてわからなかったが、鈴原がわずかに笑っているような気がした。
「何かおかしかったですか?」
一瞬気づかなかったふりをしようかどうか迷ったがどうしても確認したくなり少しわざとらしい口調で訪ねてみる。
「篠崎さんのことを馬鹿にしたとかそういうのじゃなくて本をちゃんと読んでくれたのが嬉しくてつい」
「いや謝ってもらう必要はありませんむしろ笑ってくれてよかったです」
そう言うと鈴原の方が赤くなっている。
少し遅れてようやく俺はたった今口にした言葉の意味にやっと気づく。
なんだよむしろ笑ってくれてよかったですって!
新手のナンパかなんかなのか!
そう思うと恥ずかしさが込み上げてくる。
「この後俺用事があるのでもう行きますね」
「あのちょっと!」
わざとらしい口調で言って図書館を出る。
よく聞こえなかったけど俺に何かを言っていたような気がする。
「まあいいかそんなに重要な話じゃないだろう」
教室に向かってしばらく歩いていると重要なことを思い出す。
しまった!
謝るのを忘れた。
次の瞬間鈴原が笑っていたことを思い出す。
「俺と話してて笑ってくれてたってことは俺が何かしたってわけではないのか?」
一度立ち止まり呟くように言う。
とりあえず笑ってくれたってことは俺に少なからず心を開いてくれたってことか。
そんなことを考えながら教室の中へと入る。
「今日はギリギリじゃないんだな」
「今日は意外と早く起きれました」
冗談ぽく笑いながら言葉を返す。
「今日は朝のホームルームが終わったら席決めをするぞ」
「席決めですか?」
「なんだ昨日の帰りのホームルームで行っておいただろう」
「一度決まったら前期はその状態で行くからな」
「名前を呼ばれたやつから順番にこの箱に入ってる紙を1枚引いていけ」
「その紙に書いてある番号が自分たちの席だ」
どうしよう昨日は鈴原のことにずっと頭を使ってたから話が頭に入ってこなかった。
どうしよう!
改めて考えてみてもやばい。
そんなに話しかけてこない生徒だったらいいけどもし陽気な感じの生徒だったら終わりだ!
陽気な感じと言ってもこっちから話しかけなければ絡んでこない相手だったら問題はない。
俺がそんなことを考えている間にも生徒の名前は呼ばれ箱に入っている髪がどんどんと引かれていく。
「次篠崎」
とりあえずこのまま考えても仕方がないし言われた通り引くしかないか。
少し躊躇しながらも引いた紙の番号を見る。
「一番後ろの席か…」
紙に書かれた番号の先へと向かう。
席にこだわりもないしましてや隣になりたい仲のいい生徒もいない。
自分の席に座り特に理由はないが頬杖をつきながら窓の外の景色を見る。
外の景色を見ることは好きかと聞かれれば正直言ってそうでもないが、授業を受けている最中なんとなく外を見れるというのは好きだ。
頬杖をつきながらしばらく外の景色を眺めていると1人の生徒が声をかけてくる。
「これからよろしく!」
言われ顔を向けてみるとそこにはいかにも今時の中校生といった感じの陽キャの男子生徒が俺の隣の席に座っている。
見た目は茶色が入った短い紙、絵に書いたような主人公の親友ポジションのような雰囲気。
「よろしくお願いします」
「なんで敬語なんだよ面白いなお前」
まずいぞこれは相当まずい、陽キャに下手に気に入られないようにそっけない挨拶を返したつもりだったがそれが逆にあだになったか!
「俺の名前は
「篠崎春樹です」
「よろしくお願いします」
「いつも休みの日とかって何してる?」
自己紹介からのスムーズな一般会話の持ち運びさすがだな。
「休みの日は本を読んでますね」
ほんと一口に言っても色々ある勉強の本 娯楽の本科学的な本小説。
あまりに意味が広いこの言葉からじゃ話を繋げようにもそう簡単にはつなげられないだろう。
「本読むの好きなんだ俺は漫画を読むのが好きだけど」
一度自分の話に変換して俺の様子を見るつもりか。
さあ次はどう攻めてくる!
俺はたとえどう返されても反応しすぎずちょうどいい距離を保つ。
そんなことを考えているとどこからか誰かに見られているような視線を感じる。
なんだ今の寒気は!
「大丈夫か?」
「なんか今変な感じがしたんですけど特に何ともなかったみたいです」
「なんかもし体調が悪くなったりしたら言えよ俺が保健室に連れてってやるから」
眩しすぎて直視できないこれが陽キャの優しさの力なのか!
学校の授業を終え家に帰っている最中俺はため息をつき方を落とす。
「今まで学校で過ごしていた通りなるべく目立たないように動いてれば少なくとも悪目立ちをする可能性は減らせる」
「ただいま」
「おかえり何か学校で楽しいことあった?」
またその話かと思いつつため息をつきながらも今日は提供できる話がある。
「今日はクラスで席替えがあった」
「席替え!」
その言葉を言っただけで嬉しそうに目をキラキラと輝かせながら訪ねてくる。
「可愛い女の子と友達になった!」
「それとも面白い男の子!」
「なんで面白い男の子か可愛い女の子かの2択なんだよ」
「しかも女の子の方にいたっては何で出会ってすぐ友達になってんだ」
「ていうか何でそもそも母さんが学校に行ってるわけじゃないのにそんな目をキラキラさせて喜んでるんだよ」
「別にいいじゃない女の人は何歳になっても恋バナが好きなのよ!」
別に恋バナが好きなのは一向に構わないんだが考え方が少女趣味なのはどうにかならないか。
この親にそんなことを言っても無駄か。
まぁ俺は何の事件も起こらず平穏な学生生活を送れればそれでいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます