第3話
目を開けてみるとそこは暗闇だった。
「どこだここは?」
左右どこを見渡してみても暗闇が続いているだけ。
女の子のあざ笑う声がどこからか聞こえてくる。
しばらくすると目の前に小学生の時の俺が現れた。
その映像を見る限りクラスのみんなと何かを話してるようだ。
「篠崎は何がいいと思う?」
1人の男子生徒が小さい俺に話しかける。
「そうだな俺はこれがいいと思う」
「ええ私はこっちの方がいいと思う」
そうだおぼろげではあるが覚えている周りの人たちに合わせよくできもしない作り笑いを顔に浮かべ波風を立たないようにする。
「小学校の時の俺はこんな感じだったな」
今考えてみるとこれでうまくやれていると思っていたのが不思議なぐらいだ。
目の前の映像が次の場面えと切り替わる。
「ねえねえ一緒に帰らない」
聞き覚えのある甘いその声に体がビクッと反応する。
「やめろその女と関わるな!」
いくら呼びかけても画面の向こうにいる小さい自分に声が届くことはない。
「やめろやめろその女と関わるな!」
声が届かないとわかっていても叫び声をあげる。
「だめだ考え直せ一時の喜びに惑わされないでくれ」
どんなに声を張り上げても過去の自分には声は一切届かない。
「はぁはぁ…」
一度体を起こし長時間走ったかのようにキレている呼吸を整える。
「なんで今になってあの時の悪夢が出てくるんだよ!」
ふと横に顔を向けてみると窓から見える景色はまだくらい。
今は何時なんだろうと思い布団の横に置いておいたスマホの電源をつけ時間を確認する。
「なんだよまだ2時じゃねぇか」
布団の中に潜りなんとか寝てみようとしてみるがなかなかそううまくはいかない。
気がついた時にはもう空に日が昇っていて朝になっていた。
なんとか布団から起き上がりリビングに向かう。
「おはよう」
「あらどうしたのその目の下のクマ」
「昨日ちょっとなかなか眠れなくてさ」
あくびをしながら答える。
寝よう寝ようと頑張って結局寝れたのは30分だけ。
「おはよう」
お父さんがあくびをしながらリビングにやってくる。
「とりあえず朝ご飯食べて元気出して」
「まあ具合が悪いとかじゃないから大丈夫だとは思うけど」
テーブルの上に置かれたスープに口をつける。
「どう?」
「体に染みわたる」
「何40代の親父みたいなこと言ってんだよ」
父さんが俺の頭を軽くこずく。
「ごちそうさまそろそろ行くわ」
「そろそろ行くってまだ早すぎるでしょ8時よ!」
「いつもこんな早い時間に行って何してるの?」
「特に何してるって訳でもないけど学校の図書館で本読んだり」
「何て言うかまだほとんど誰もいない図書館の中で本を読んでるとなんか安らぐんだよ」
「なんだか母さんにはよくわからない感覚だけど楽しい趣味が見つかってよかったわね」
これを趣味と言っていいのかどうなのかわからないがわざわざ説明する必要もないかと思い家を出た。
学校の図書館に向かい中を覗いてみるとやはり中には鈴原がいた。
昨日は偶然通りかかっただけだったが今回はちゃんと本の感想を言うという目的がある。
ゆっくりと扉を開け本を読んでいる鈴原に声をかける。
「おはようございます」
「おはようございます」
一度本から目線を外し俺の方を見て言葉を返してくれる。
「昨日おすすめしてもらった本なんですけどとても面白くてすぐ読んじゃいました!」
「喜んでくれたんでしたら良かったです」
相変わらずの平坦な口調で返してくる。
「あのまた何か面白い本があったらおすすめを聞かせて欲しいんですけど?」
昨日と同じようにしばらく考えた表情を浮かべた後立ち上がり本棚の方に向かう。
「これなんてどうですかね?」
そう言って手渡されたのは2つの本だった。
1つの本は昨日おすすめされたホラー小説で短い話がいっぱい入っているという小説だ。
「この小説は?」
表紙に小さな男の子の絵が書かれているだけでどういう小説なのかは全く予測ができない。
「この小説は小さな3歳ぐらいの男の子が主人公なんですけど仲のいい友達と少し気まずくなっちゃってそこからどうして行こうかっていう話です」
一生懸命言葉を尽くして説明してくれようとしているのは伝わってくるがなかなか話の始まり部分はだいたい分かったがその他に説明してくれたことは理解できなかった。
「分かりましたとりあえず帰って読んでみますね」
その本と一緒にまた早く読み終わってしまった時のためにこの前教えてくれたホラー小説を借りておく。
「そういえば鈴原さんって何でいつも早い時間に来てるんですか?」
すると本から少し目線を上げ聞き取れるか聞き取れないかのギリギリの声で言った。
「本が好きだからたくさん本が読みたくて」
言っている言葉は何とか理解したがそう言っている彼女の表情はなんだか曇っている。
何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと少し焦ってしまう。
聞いちゃいけないことだったのか?
単なる一般会話程度に話したつもりだったがもしかしたら聞かれたくなかったことなのかもしれない。
「あの1つ 聞きたいことがあったんですけど」
なるべく自然な口調で話題を変えるように言う。
「鈴原さんってラノベって呼んだことあります?」
「そんなにたくさんは読んだことありませんけどまぁそれなりに読みますよ」
「家だとラノベの方が結構読んでて本棚にぎっしり詰まってるんですよ本が」
「例えばどんなジャンルの本を読むんですか」
「どれか特定のジャンルを読み込んでるってわけじゃないんですけど恋愛ものから文芸のものまでいろんなのを呼んでます」
「文芸小説といっても一般的に知られてるような小説じゃなくてラノベの中で文芸小説に近い物って意味ですけどね」
もしかしたら家の中で呼んでいる小説は俺の読んでいるものと近いかもしれない。
そんな話をしているといつも通り遠くの方から何人かの生徒の喋り声が聞こえてくる。
「もうこんな時間だ俺そろそろ行きますね!」
自分のクラスに向かい席に座る。
「何をしてたんだ遅いぞ!」
「すいません遅れました」
言って自分の席に座る。
「昨日もギリギリで教室に来てなかった」
「時間破ってる俺様かっこいいって思ってるのかしら」
「もし本当にそう思ってるんだったら遅刻してきそうなものだけど」
「本当はやってみたいけど先生に怒られるのが怖いからできないんじゃない」
「もし本当にそう思ってるんだとしたらだいぶ危険だけどね」
「確かにそれは言えてる!」
なんだかよくわからない理由でネタにされ笑ってるみたいだが別に今更気にすることでもない。
それに俺はそこまでして人の注目を浴びたいと思っていないしどっちにしろそんなことをやる勇気は俺にはない。
そんなことより今気になっているのは鈴原があの時一瞬浮かべた曇った表情だ。
何か俺言っちゃいけないことを言っちゃったかな?
もしそうだとしたら謝んなきゃいけないけど何で怒らしちゃったのか具体的にわかってないから下手に謝ってもまた気分悪くさせるだけだし。
「どうしたらいいんだ」
「どうしたらいいか教えてやろうかひとまず出席の返事をしろーーー!!!」
耳の前で叫び声を上げられ驚いた俺は椅子ごと一緒に倒れる。
「いた」
「もう一度言うぞ」
「篠崎春樹」
「はい」
どうやら俺は無意識のうちに思っていたことを口に出してしまっていたらしい。
先生の言葉に驚き倒れてしまった椅子を直しながら返事をする。
とりあえず理由を思い出して早く謝らないと。
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