第90話 転校の話(南編)

 南の過ごしている部屋に、母がやってくる。


「南、伝えたいことがあるの」


 母の表情を見て、悪い報告であることを察する。


「おかあさん、どんなことなの?」


「おとうさんの仕事の都合で、引っ越しをすることになりそうなの。完全に決まったわけではないけど、覚悟はしておいてね」


 文雄とせっかく同じ学校に通えたのに、またはなればなれになる。南は現実を受け入れたくなかった。


「おかあさん、何とかならないの?」


「こればっかりは・・・・・・。私の力ではどうすることもできない」


「私がいなくなったら、文雄はいじめを受けることになるんだよ」


 5年間の無視で、心は大きく傷ついている。さらなるダメージの蓄積は避けたいところ。


「文雄を支えるためにも、私は絶対に引っ越したくない」


「南、わがままをいうのはやめなさい」


 二人のいるところに、父がやってきた。


「南がそんなに大切に思っているなら、同じ学校に通ってもいいぞ。引っ越しについては二人ですればいい」


「南はどうするの?」


 母の質問に、父が答える。


「橘君の家に相談してみる。OKをもらえたら、一緒に生活してもいい」


 文雄の家で生活できるかもしれない。そのことを知って、ガッツポーズを何度も繰り返した。


「あなた・・・・・・」


 父は100枚くらいのレポート用紙を置いた。


「いろいろと調査をした結果、あまりにひどすぎるいじめが判明した。一人ぼっちにすれば、彼の身には危うくなるのは避けられない。信頼できる人間を傍において、彼を支えてあげるべきだ。彼の身に悪いことがふりかかったときは、こちらで再起不能になるくらいの圧力をかけよう。小中学校の校長が生ぬるいと思えるくらいに・・・・・・」 


 小学校時代の校長はホームレス、中学校時代の校長も自宅を売却され路頭をさまよっている。いじめに加担していた親は会社を追い出されるなど、生活不可能なレベルまで追い込まれた。○○○○などの力をもってすれば、一般人などすぐに始末できる。


 普段は厳しい男は、父親の顔になった。


「お嫁さんになるというなら、その男を守ってやりなさい。一度きりの人生だから、好きなようにやるといい」


「南をあんまり甘やかしてはいけません」


「本当に大切な人を守れなかったら、ずっとずっと後悔することになる。未来にすすめなくなる方が、よっぽど問題は大きい」


 南は嬉しさのあまり、おとうさんに抱きついた。


「おとうさん、ありがとう・・・・・・」


「橘君についても、いろいろと調査した。読書を続けていただけあって、なかなかの能力を持っている。独立してもいいし、会社で働いても、南を支えていけるはずだ。万が一の時に備えて、うちで仕事できるようにしておく」


 父から全面的なサポートを約束された。文雄と結婚するにあたって、障壁になる要素は一つを残すのみとなった。


*自話からは文雄、南のラブラブシーンが中心です。

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