第32話 授業に身が入らない(翠編)

 文雄、南は一生懸命に授業を聞き、他の生徒はボケっとしていた。あの様子では、何も頭に入っていないと思われる。


 授業を必死に受けたとしても、明日には退学、停学処分になるかもしれない。そのような状況において、まともに心境で授業を受けるのは無理だ。

 

 罪を白状したら、学校からいられなくなる。隠し通せるのであれば、一日でも長く隠していきたい。調査の熱も冷めて、何事もなかったかのような学校生活を取り戻せる確率だって0ではない。


 数学Aの教師は、淡々と話し、淡々と黒板に公式などを書いていく。文雄、南以外の生徒は、ノートに書き写していなかった。そんなことをしても、無駄であることを察しているのかもしれない。


 昨日の夜から何も食べていないからか、体の力が抜けそうになった。かろうじてこらえるも、限界なのははっきりとわかった。

 

 体育の授業で倒れた男が、数学の授業においてもぐったりとなった。教師はそれに気づいた。


「体調が優れないなら、すぐに教室から退室しろ」


 男子生徒は席を立とうとするも、すぐに椅子に座ってしまった。歩くことすらできないほど、体は消耗してしまっている。


「保健室、いいや自宅に連絡しろ。身内の方に連れて帰ってもらえ」


 亜美の件があってから、保健室は使用禁止とされた。学校施設を使わせてもらえないのは、さすがにやりすぎだ。命にかかわるような事態になったとき、どのように責任を取るというのだ。

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