1章
第5話 ”初”の場所
「緊張する」
胸を抑えて、身を縮こませるアイナ。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
「ここは屋敷じゃないんだから......アイナと呼んでよ」
ごもっとも。原則でヴィクトール学園に従者は付き添えない。だから、私がここで『お嬢様』と呼べば、どっちかが最悪退学扱いになる。
「わ、わかりました」
「何故、苦渋の選択するしかないって顔を出しているの!?」
「......えっと、アイナ。これからよろしくお願いします」
「敬語も禁止!」
「そっちは、追い追いということで。敬称なしの名前読みで限界です」
「わかったわよ」
前を進むアイナの頬が、ほんのり赤く染まっていた気がする。
後ろを歩く私はポケットに入れている手帳を取り出した。
「えっと、今日の予定は......校長室に行くだけか」
手帳には、前世の『リーリウム・オスクルム』知識が全て記載されている。一冊だけだと思いますか?
ご心配ください、残りは日用品などと一緒に寄宿舎へ運ばれているころ。
転生先が『リーリウム・オスクルム』だと判明した瞬間から、アイナの学園生活三年間を全て手帳に書き記した。
理由はただ一つ。
「推しの幸せが私の幸せ!!!」
勢いのまま拳を上に突き出した私。入学式を終え、自分の教室に向かう新一年生が奇異な目で私を見ている。
「ちょ、ちょっと。急に大声出さないでよ」
「すみません、ア......アイナ。つい興奮してしまって」
「そんなに学校生活が楽しみなんだね。私と一緒!!」
幸せだ。推しと楽しみを共有できるなんて。
「でも、」
アイナはポケットからハンカチを取り出した。
「さすがに涙は拭いな」
「ありがとうー......ございます」
アイナのハンカチ。念の為に複数枚持たせている。これから登場する女の子と話すためにはなくてはならない必需品。
ここで私がアイナからハンカチをもらってもシナリオには影響しない。
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