第2話 メイド、推しと一緒に学園に入学する
「お嬢様、起きてください。朝ですよ」
体を揺らしても、アイナは起きなかった。腕時計の時刻は六時三十分。始業式までは一時間以上ある。登校には余裕があるがやらないといけないイベントがある。
(あと、五分で支度しないとユーリの好感度が減る)
アイナの野望のためにこしらえたスマホを操作し、目的のアプリを起動した。
『恋人への道標(ラブ・カウンター)』
ゲーム時代の頃は『恋人への道標(ラブ・カウンター)』は主人公だけが持つ特別なアプリだった。設定的には入学一ヶ月前に夢に登場する”神”と名乗る存在がアイナに授けたアプリ。
アプリを起動させると表示されるのは出会った女性のパラメーター・好感度・プロフィール。
プロフィールは、ヒロインたちの個人情報。初めは黒塗り状態のアイコン。徐々に仲良くなることで顔画像や全体画像まで見られる。そして、各ヒロインの設定も少しずつ解禁される。
パラメーターは戦闘パートで重要視されるシステムで、パーティーメンバーの武具や装飾品、覚えているスキルや魔法を見ることができる。
好感度は、ヒロインとのイベントで返答次第で好感度が上昇したり、下落したりする。上がれば、次なるイベントが発生。最終的には恋人関係になる。
ある特殊イベントに進行すると、時間を共有できる夢のイベントまで用意されている。勿論、私はメインキャラの秘め事は全て制覇しています。長年付き従うメイドの私のお願いで同じアプリを頂いた。
「同じアプリを持ってもシナリオの変更はないっとな」
アイナしか持てないアプリをモブでもあるメイドの私が持つとシナリオの大幅な修正がかかる可能性もある。と考えたが、前世の記憶を確認しても私の新たな体でもあるバロンは、登場していない。
テキストに一文だけ登場しただけのモブの中のモブ。勿論ゲーム時代には学園に入れないので攻略対象からは除外されている。
寝ぼけた声が聞こえた。翡翠色の瞳が私を捉える。
「あれ〜 バロンじゃん。おはよう!!」
「おはようございます、お嬢様」
「今日も銀色の髪、綺麗ね。襲っちゃダメよ」
「襲いません。お嬢様......ユーリ様がお待ちです」
目を見開き、覚醒するアイナ。
「しまった!? 入学式は一緒に行くって約束していたんだ」
うん、可愛い。さすが私の推し。行動一つ一つが愛らしい。前世の記憶を思い出して、早一か月。いつ見ても推しのアイナを観察するのは飽きない。
「バロン、制服は?」
「机に準備しております、お嬢様」
「ありがとう、さすが私のメイド」
「勿体なきお言葉です」
モジモジし始めるアイナ。
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「着替えさせて」
「お嬢様、学園では一人で着替えないと......」
私の言葉に首を傾げる仕草を始めるアイナ。
「あっれ〜 おかしいな〜 私の記憶では同室はバロンだった気がします」
「えぇ。実に不思議です。お嬢様が旦那様の直談判し、多額のお金を学園に寄付。その結果、私も学園に入学することになりました。本当に不思議な出来事でした」
内心、アイナ様と一緒に学園生活ができて狂気乱舞していたけど。二日くらい不眠不休でメイド業務に励んでいたな〜
「だって......」
立ち上がり、私の手を掴むアイナ。
「バロンがいてくれたから、今の私がいるの」
上目遣いは反則です、アイナ様ァァアアア!!!!
「だから、これからも私の側にいてくれますか」
興奮して鼻血が出てしまった。いけない、いけない。鎮めなくては......
「わかりました、このバロン。いつでもお嬢様のお側を離れません」
満面の笑みが私を襲う。直視できない!?!?!?
「ありがとう、では早速着替えさせて」
「かしこまりました」
守りたいこの笑顔。そして、見たい。アイナのかけがえのない三年間を。
心で決意表明した私は、天使が顕現したかのようなアイナの真っ白な肌に学園の制服を通した。
こうして、ただのモブメイドの転生した私は。主人公と共に入学するのだった。
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