デュアルシスターのお話



 孤児院とは戦場である。


『びえええええええ!』

「ああんもう!泣かないの!ほらそこ連鎖して泣かない!」

「サラークの胸ぺったんこ~!」

「悪かったね!」

「サラぁ~、そろそろお昼ご飯よ?」

「お姉ちゃんも手伝ってよぉおおおお!」


 悲鳴と怒号と罵声が飛び交う。大きな孤児院とはいえ、何とか2人で切り盛りしているシスター姉妹は報われて欲しいものである。

 サンノミヤ孤児院は町で最も有名な施設だ。看板娘が2人、しかも美人姉妹である。どうして有名にならないと言えよう。しかしレストランやら文化財やらといった施設に孤児院が圧勝するのはどうしたものか。


 子供達を落ち着かせて座らせたサラーク=トリルティアラは疲労が滲む溜め息を吐いた。


「お姉ちゃんさぁ~……ちょっとぐらい手伝ってくれても良いじゃん?」

「さあ皆、今日もご飯いっぱい食べてね」

「聞いてよ!」


 スノザート=トリルティアラは妹の言葉を無視して子供達に食事を促す。にこりと微笑みかけるその姿は女神のようであり、何も気にせず聞き流すその姿は悪魔のようであった。



 食後に子供達を伴って外を歩きに行く。姉妹は共に美麗な為、外に出るだけでも衆目を集める。そして子供達の手綱を引くのは基本的にサラであった。


「こら!飛び出るな!」

「べぇー!」

「いつの間にそんなの覚えたの……!」

「サラおねぇちゃん、あれ何?」

「あれ?あれはね、ナンカイヤシっていう樹のね、」

「隙ありぃ!」

「また捲りおって……!今日という今日は許さないからね、そこのガキンチョ!」

「サラーク=トリルティアラが怒った~!」

「何でフルネームで呼ぶの!?」


 後ろから騒がしい集団を見守るスノザート。押している荷車には比較的幼く歩けない子供達を入れている。ちなみに妹の本日の色は白である。姉特権で決めておいた。


 ワイワイと騒ぐ集団は孤児院の目印である。更に言えば、美人姉妹がお散歩しに来るという合図だ。従って孤児院を出て数メートルすればぞろぞろと近隣住民が出てくる。その手には多様な食料品があり、至近距離での微笑みと指のふれあいを期待していることがありありと滲み出ている。そのおかげで生活出来ているのである程度は構わないと姉妹は言う。

 柔らかすべすべの指と触れ合えて聖母と天使の微笑みで労ってくれるのであれば食べ物なんて惜しくないのである。


「今日もありがとうございます」

「いつも助かってます!」



 お散歩して騒げば眠くなる。なので帰宅後はお昼寝の時間となる。おねむの子供達を布団へ押し込みきったサラークはへろへろと座る。


「ぢょっどばでづだっでよ」

「お疲れ様。お姉ちゃんがぎゅーってしてあげようか?」

「じで!」

「うっそぴょい♪」

「びええええええええええええ!」


 サラ虐でニコニコと微笑むスノザート。楽しんだら抱き寄せ、抱っこして背中をぽんぽんする。サラークはすぐに泣き止み姉に引っ付く。


 姉妹が静かな時間を過ごし、やがて眠りに就く。そして醒めた。



 それは大いなるもの。


 それは歪なるもの。


 それは異端なるもの。


 そして神なるもの。


 身体から無数の腕と管が伸び、2人を包む。互いが絡んで繭を創る。白昼の悪夢と黎明の想い出は安息なる時を刻んでいく。



 そしてにわかに騒がしくなり、繭がほどける。目を擦って伸びをして……走った。


「はいはい誰がお漏らししたって!?」

「サラーク!」

「サラーク=トリルティアラ!」

「サラーク=トリルティアラ!」

「はいそこ後でお尻ペンペンの刑!」

「やだぁあああああ!」

「んぇ……サラお漏らししたの?」

「お"っ……ッ!姉ぢゃん……ッ!」

「あら図星なの?」

「さっさと手伝ええええええええええ!」

「頼む時はお願いしますだろー!」

「サラーク=トリルティアラが怒った~」

「ッ!ッ!ッ!」

「サラ……カルシウム足りてる?」

「スゥッーーー……ハァッーーー……お願いだから手伝ってお姉ちゃん?」


 これは騒がしくも微笑ましい毎日の物語。神に護られ、邪なる聖域は変わらずに在った。

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