第7話 つれづれ

東京に帰ってきた。

不思議なことに、逃げ出さずにはいられなかった部屋なのに、帰ってきた瞬間、ほっとした。

本棚のビジネス本も、直視はできないけれど、逃避行前ほどには気にならない。


荷ほどきをしたり、労働基準監督署に相談に行ったりしながら、これからのことを少し考えた。

転職するとして、私に何が出来るだろう。私は何がしたいのだろう。


そして気づいたのは、会社で上からされたことは耐え難かったけれど、業務内容自体は好きだった。

何で好きなのだろうか、と自問して、人の役に立てるからだと気が付いた。


誰かの人の役に立ちたい。

プライベートでも、会社でも、周囲に迷惑をかけてばかりの私だけれど、ありがとう、助かったと言ってくれるクライアントがいた。そう言ってもらえるのが、何よりも嬉しかった。


まだ、復職には程遠い。午前中は動けても、午後にはしんどくなる。ビジネス本を開くこともできない。世の中はどんどん進んでいくのに、私の知識は止まったままだ。


それでも、誰かの役に立つことなら、今でも少し出来る。ほんの少しではあるけれど。

うっかり大量に買ってしまったまま放置していた未使用のカイロ(使用期限前)や、歯の矯正を始めてから食べなくなったレトルトカレー(装置に色がついてしまうから)を小さな段ボールに詰めて、昨日、NPO法人に寄付をした。

贈ったものが誰かの役に立てたら嬉しい。


お金も所持品も有限だから、こうやって出来るのはほんのわずかだけれど、人の役に立てることで探したら、他にもあるかもしれない。

積極的にボランティア活動に参加は出来ないけれど。

こんな私でも。何か。見つかったら嬉しい。




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