逃避行
@tsubaki_kaede
第1話 逃避行
「のがれて都を出ました」という言葉を読んだのは、太宰治の風の便りだった。
東京駅から離れていく新幹線の中で、この言葉を思い出した。
今までは心地よかった自分の部屋に、いるのが耐えられなくなった。
本棚の半分を占めているビジネス本や、テーブルの上のディスプレイを見ると、どうしようもないくらいに悲しくなる。
これまでは本棚を見ても何とも思っていなかったのに、一度悲しくなるとあっというまに心の中に広がって、意識を占拠した。
未来に繋がると思って買って読んだ。
けれど、何の評価にもつながらなかった。無駄な努力だった。
死にたくなって、持っている薬の数を数えて、致死量を調べた。
けれど、これで死んだら主治医の先生は悲しむだろうなと思ってやめた。
治療のために処方した薬で患者が死んだら、きっと悲しい。
部屋にいると悲しくなるので、しばらく逃げてみることにした。
独身一人暮らしで家出というのも妙だけれど。
逃亡先は、大学時代に暮らしていた地方都市。
まずは10日、ウィークリーマンションを借りた。
逃げて、何かが変わるかはまだ分からない。
いつまでも逃げられるわけでもない。
でもほんの少しの間だけ、逃げていたい。
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