第32話 処女寺炎上

 それから1ヶ月後 

 処女寺の境内


「朝廷からの使者も全て帰っちゃったし、熊鹿肉も無事地球のサニーのとこに着いたっていうからこれで安心よ。今夜ははパーティで盛りあがろうぜ、な、ポンタ。お前たちの手術も無事成功だったっていうから」


リンジーはポンタの下半身を見つめている。


「あ、はい」

「もう痛みとかは全然ないの?」


「あ、もう全然っすよ。手術も5分くらいだったでしょ。びっくりしちゃったですよ。ポントの心因性勃起不全も解消されたし」


「流石、先端医療研究センターね。もうアタシのお風呂とか着替えとか覗いちゃダメよ、それだけはお願い」


「あ、手術後のカウンセリングで諭されましたよ。タヌキなんだから人間を性的対象にするんじゃなくて、タヌキに興味を持つようにって。で、人間に興奮したら、セルフプレジャー、即ちひとりエッチでガマンしてくださいって」


「で、やっぱご本尊様の今日着てらっしゃる衣装見てるとそうせざるを得ないかと・・・・・」


「おおお、ポンタ、治ってる。治ってるじゃん、元気な男の子になってるよ」


リンジーは今夜パーティのため、フレンチメイドの衣装を地球で買って、着て来たのだ。


 ホワイトブリムについたタヌキ型のケモミミ、ミッドリフになってヘソ出しのコルセット、ヒラヒラの超ミニにガーターベルト、黒い網タイツとエナメルのヒール。腰に手を当ててポーズを取ると他のタヌキたちの下半身も全て直立している。


「へえ、ポントの心因性EDも解消されたって、よかったわねえ」

「えー、なんだっけ、医者が説明してくれたんですけど脳の中心部にある側坐核そくざかくていう所からドーパミンが出なくなって性的興奮が阻害されてるとかで、内耳から注射で極小量子コンピュータを入れて、側坐核を刺激したみたいです」


「おお、流石火星の先端医療ね。地球人が聞いたらびっくりするわよ」


「リンジー、久しぶりじゃのう。また今日も突飛な衣装じゃ」


後ろから声をかけて来たのは、ポンポコ御前である。御前は庵に滞在中だったサンデル博士を同伴している。


「こちらはオリンポス山の地質調査のため我が庵に滞在中のアレックス・サンデル博士じゃ、博士、処女寺の本尊、リンジー・ミルフォードです」


サンデル博士とリンジーは笑顔で握手を交わす。


「さあ、中へ入りましょう。パーティの準備も整ったようですよ」


サンデル博士に促されて本堂へ入ると、大きな方丈には狸大将タヌタイショウ一斎イッサイポンノ介が周囲のタヌキたちに指示出しをして料理や飾り付けの準備に余念がない。


 中央には地球からの贈り物である信楽焼きの大きなポンポコ御前像が付置されている。その周りに近江の地酒が入った信楽焼き徳利が何十も置かれ、そしてタヌキ達が焼いた栗や餅が何十もの皿に盛られている。


 ポンポコ御前は自らの像の前にドッカと脚を組んで座った。続々と狸たちは宴会場と化した方丈に座り始めた。


 「今日はのう、わしらのために、おキツネ稲荷一族が稲荷明神から大勢駆けつけてくれたのじゃ。ポンノ介、控えの間にいるので呼んできてくれ」


 ポンノ介に誘われて大勢のキツネたちが一列になって入場して来た。その何人かは大皿に何十も稲荷寿司を乗せて運んでくる。おキツネ族のお頭、コンコン丸が御前の横に並んで挨拶する。


 「この度はめでたく熊鹿肉が地球に届き、東西の緊張も解けておめでとうございます。今日は縁起物の稲荷寿司をもってまいりましたので、どうぞ腹一杯お召し上がりくだされ」


 リンジーも前で挨拶する。


「お陰様で平和になって、ポンポコ御前と御家来衆に感謝致します。アタシからのプレゼントはこれかなあ、受け取ってね」


 リンジーはそういうと、手に持っていた籠からハート型のチョコレートを周囲にばら撒く。タヌキたちは一斉に手を出して奪い合う。


 その時だった。何かゴーっという低い音が響き始めたのだ。


「これは飛行船、いやミサイルのエンジン音ですよ」


サンデル博士は立ち上がる。


「防空設備なんかないですよね」

「そういうことも危惧して、周囲四方に配備したの、強力電磁波シールドを全面に被せるパーフェクドームってやつ。西側のエージェントから密かに買ったの。ポンタ、スイッチ入れな」


 ポンタが方丈の柱に装着されているスイッチをオンにすると低周波音と共に光で本堂が照らされる。


「さあ、皆んな、本堂からすぐに避難するのよ。境内から出て、シールドの端まで走って待つの。さ、早く」


 全員が本堂の前から降りて、広い境内を駆け抜けて平原に達する。寺を振り向くと何十という小型ミサイルが寺の上空で破壊され、粉々になっている。


「これね、パーフェクドームは20分しか持たない。これが消えた時、燃えてるミサイルの破片が全てお寺に落ちてくるの」


攻撃が止まりシールドが消えた時、炎上した破片が全て処女寺の本堂に落ちて、本堂は勢いよく炎上した。


「おお、何もかも燃えて灰じゃあ。誰が、誰がこんなことを。おのれ楊将軍、裏切りやがったか、おのれええ」


「いや、ミサイルの方向は第六師団からじゃないですよ」


サンデル博士は小さなキットを操作して空中にGPS地図画像を出した。


「ミサイル発射は東ベンの都からのようです。都の直隷軍基地かと。直隷軍は宰相李安徳氏の私設部隊、即ち犯人は李安徳氏かと」


 焼け落ちた方丈の中で黒焦げになったポンポコ御前像と地酒徳利の前でタヌキたちは皆肩を震わせながら俯いて号泣していた。


「おのれ、李安徳、この恨み晴らさでおくものか。タヌキを馬鹿にしやがったな。必ずお前の首を取ってやる、覚えておけ、李安徳!」


ポンポコ御前は叫んでいた。


つづく








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