第30話 MARS CURRY 誕生

地球 東京

MARS BURGER 本社事務所

会議室 

定例、月曜日朝の戦略会議


 立ち上がったのはダークスーツに身を固めた社長の博士屋太郎である。


「お陰様で、東ベン皇帝からの使節が大量に熊鹿肉を送ってくださいました。我々は地球の牛肉と桃でほぼ等価になるよう物物交換していますが、これも政府に諮って、近々火星円と日本円の交換レートを定め、通貨で売買できるように取り計らう所存でございます。


 倉庫一杯分の熊鹿肉が手に入りましたので、当分の間、熊鹿バーガーの販売が可能となりました。しかし今後全国的にフランチャイズ展開して行く場合、いずれはこの肉も尽きてくることが予想されます。


 火星では熊鹿の乱獲に批判が集中し、東西の政府が当面狩猟を凍結したということです。ですから新しい商品の開発も同時に必要かと存じます。


 このことに関して、常務の博士屋功夫君から提案があるので、お聞きください」


功夫が立ち上がる。


 「お陰様で熊鹿バーガーは売れ行き好調で、今やアメリカ政府も注目しているところです。


 日火修好通商条約は我々だけに通商を限定するという条文があり、これは大泉首相のファインプレーですよ。お陰でゆくゆくは米国、中国、韓国にも進出可能かと。


 そこでです。今までバーガーで使っていた部位は、牛肉同様、背中のフィレやサーロイン、肩ロースだけだったのです。即ち、お腹のバラ肉や、腿肉、脛肉などは大量に冷凍保存されたままかと。


 そしてタンであるとか、熊鹿の角さえも煮込めばスープに十分なりうるかとね」


功夫はニヤリと笑った。


「何をおっしゃりたいのですか?」

 

 副社長で五菱いつびしPFJ 銀行から出向の湯水出太蔵ゆみずでたぞうは少し焦るように促した。


 「熊鹿バーガーは小さい子供と家族連れ、若者には大人気でしょう。我々は新たなターゲット・カスタマーを開拓する必要がある。


 高齢者から中高年、小さな子供にまで人気のメニューと言えばなんでしょう。日本人の国民食、カレーではありませんか。我々は新しい店舗としてMARS CURRY をまず都内中心部に5店出店する計画を極秘裏に社員チームを作って立ててきました。ご覧ください」


 功夫がパワポを立ち上げると、社内プロジェクトチームの作ったMARS CURRY のロゴと店舗、地図、メニューが画像で浮かび上がった。


「おおっ」


役員全員の溜息が漏れた。


 「ゆくゆくは熊鹿カレーのレトルトを都内中心部のスーパーで販売を計画しております」


 役員全員の拍手で、功夫は更に幸福感に満たされていた。




その夜。都内六本木、起業家が集うカクテルバー。


「ワシはのう、今世紀もう一度日本を洗濯せねばならんって思うとるぜよ。時は今じゃ」

 

 メキシコ産コロナビールにライムを絞り、怪気炎を上げているのは、米国帰り、若いITベンチャー企業創始者である坂本金太郎さかもときんたろう


「坂本さん、私もですよ。一緒にやりましょう。日本政府のやり方はホントに生温い」


 右に座って応じるのは同じく中国でITビジネスの現場を目撃して帰国してきた仲岡新之助なかおかしんのすけ


「まずは、あの火星からUFOを買うがじゃ。そして同志を募り、UFOの操縦を習得して、火星との交易を行うがじゃ。


 ワシは首相官邸に勤めるある知人から、今度の衆院選挙中、大泉首相遊説の予定を知らされておる。


 あの渋谷の交差点、あそこに大泉がやってきた時、ワシは今の件を直にアイツに問い質してくれよう。仲岡君、一緒にやってくれるか?これは日本の未来を変える絶好の機会じゃ」


「坂本さん、やりましょう、是非」


「日本の夜明けは近いぜよ」


つづく

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第30話までお読みいただき、こころより感謝致します。

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引き続き、お楽しみくださいませ。



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