第2話幼馴染の冒険者
残ったパーティの3人は通夜のように冒険者の酒場で意気消沈していた。
……ようにではなく事実、通夜であったか。
がんっと先程までなみなみと注がれた安い酒を飲み干し、空になったカップをリーダーのエウリエクはテーブルに叩きつけた。
「……探しに行くぜ」
酒が入り、軽く赤みがさした顔はなにも酒に酔ったからではない。
血気盛んな金髪の魔剣士で色男ともいえる顔立ちがいまは怒りで震えている。
「落ち着けよ。
冒険者が行方不明になったということが、どういうことかわからないわけがないだろ?」
「いいや、わかってないのはおまえだ、シュラク!
ナターシャは生きている。
そう簡単に死ぬわけがねぇ!」
これ以上、言い合いをしても激昂していき喧嘩になるだけ。
そう見切りをつけた俺はパーティ仲間で幼馴染のもう1人、肩までの青髪のクールな見た目の美女魔剣士のカワセミに声を掛ける。
「カワセミ、おまえはどう思う?」
俺とナターシャ、リーダーのエウリエクとカワセミがそれぞれ恋人同士だった。
全員が同じ村から冒険者になるべく街に出てきた。
田舎の農村部では長男とギリギリ次男までしか割り当てられる農地は存在しない。
農村部では産めよ増やせで子を産み、大きくなった子は食うためにアテもなく街に出て、多くはまず冒険者となる。
そして半数以上が1年以内に冒険者を辞める。
限界を感じて自ら辞めるのはまだ良い方で、多くは騙されて破滅させられるか、怪我もしくは死亡する。
3年冒険者を続けられればベテランとなる。
しかし、3年以上冒険者を続けると逆に大成する者もいないと言われる世界。
実力のある者は3年以内に貴族や有力者の目に留まり、新たな世界に羽ばたいていくのだ。
4年目のサレドのパーティはベテランだったが、それは決して褒められたことではなかった。
そこそこに有名となり、成功した冒険者として呼ばれることになっても、それはいつか年齢と共に終わる夢。
どこかで大成功でもしない限り。
「ベテランのサレドのパーティは命の計算は正確だ。
行方不明なら……そういうことだよ」
そうだ、冒険者とはそういう職業だ。
順番が来た、それだけだ。
カワセミは沈んだ声だが、それが淡々と言っているように響く。
「カワセミ! 見損なったぞ!!
それにシュラク!
おまえは……おまえたちは恋人だったんじゃないのか!?
俺は行くぞ、1人でも探しに行く」
そう言って立ち上がる。
エウリエクは若手ナンバーワンとまで言われる魔剣士だが、同時に腕に自信があり過ぎて迂闊なところがある。
「……わかった。
ただし条件がある。
無理だと思ったら引くこと。
俺は恋人のナターシャも大切だが、同時に幼馴染のおまえたちのことも大事なんだ」
そう告げるとエウリエクは少し照れ臭そうに笑い、俺の肩をぐっと掴む。
「それでこそ俺の幼馴染だ」
そうして、俺たちはもう1人の幼馴染も失うことになる。
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