第14話(14)11人の言い分と特徴〈レイ〉

 午前中なのに疲れ切ったわたくしは一旦、おばあさまの部屋で休息をとることにした。

 これで2日、昼食をとる気がしない。

 食欲はぐっと落ちて、昨夜はほとんど眠れなかった。


 午後は2人で切り上げよう。

 先ほどのミサの所作を思い出し、昼食休憩後に稀人への差し入れに軽くつまめるお菓子をエイベルに持ってくるよう指示した。

「シャイロ様、昼食はいかがいたしますか?」

 食欲なんて全くない。それでもエイベル達を安心させるために軽めのものを頼む。

「スープとパンがいいわ。胃がムカムカするの」

 小さな頃から仕えてくれているエイベルはわたくしの心情をよく心得てくれて、スープと小さなデニッシュにさっぱりとした果実水を添えてくれた。


 さて、午後の一人目のレイは紫の髪に銀色の瞳、ドレスの趣味は上衣が体にピッタリとそい、スカートは控えめにギャザーによって膨らんでいたが脛が見える丈だった。袖は短い控え目なパフスリーブ。色は淡いピンク。

 紫髪に銀目のスレンダーな少女がピンクを選ぶとは。

 白いローブなら十分聖女らしくみえるだろうに。


 彼女のためには淡いブルーや菫色のドレスを調えた。


 レイも他のほとんどの娘と同じように礼を尽くさなかった。それどころかふて腐れた表情と態度を隠そうともせず、部屋付きの侍女達がオロオロしている。

 そんな侍女達に「いいのよ」と目配せをして、言葉では「お茶の用意をお願い。お菓子を持ってきたのよ」と微笑んだ。


「レイ嬢、ご不便はございますか?」

 レイもポカンと口を開けた。

 異界の若い娘のマナーなのかしら?

「さ、お座りになって。クッキーとチョコレートをお持ちしましたのよ。召し上がって?」

 ティー・テーブルに招くと険悪な表情になった。

「ここは私の部屋よ!あんたに言われる筋合いはないわ」

 その部屋を提供したのはわたくしですけどね。無礼で考えなしの娘だわ。

 ティー・テーブルの椅子にドサっと座るとチョコレートを掴み言い放った。

「ショボいお菓子ね。ケーキはないの?神殿ではなんでも好きなものを出してくれたのに」

「お好きなもの?例えば?」

「チョコレートは皿に山盛りよ。ケーキは丸ごと何個も。ここ、王宮なのにケチなのね」

 ええ、わたくし「倹約姫」の異名がありますのよ。どんな世でも備蓄は大切だし、民からの税を無駄な贅沢に使うのは控えたいの。


 それにしてもレイが手で示した大皿いっぱいのチョコレートに大きなホールケーキ!!

 孤児院の子供達に食べさせたらよろしかったのに!!


「レイ様は健啖家でいらっしゃるのね」

「ケンタンカってなによ?」

「たくさん召し上がるという意味です」

「フン!神様のお陰でいくら食べても太らないわよ。うらやましいでしょ」

 わたくし、笑顔がひきつっていないかしら?


 もういいわ。『ハナシュゴ』の夢を砕いてやりましょう。


 話し始めるとレイはみるみる赤くなった。怒っているらしい。

「バカ言うんじゃないわよ!あんた、自分がギャフンされたくないからウソ言ってるってわかるんだから!!」

 ギャフン。また新しい言葉だ。言い方からしてわたくしの破滅とか断罪のことだろう。と言うことはレイもザイディーか逆ハー狙いね。


「事実です。それと…」わたくし、とっても優しく微笑んでみせた。

「早ければ1年、遅くても3年で元の場所に帰れますわ」

「は!?なに言ってんのよ!聖女がいなくては滅ぶわよ!!」

「滅びません」

 ニコっと微笑んで立ち上がり、優雅にカーテシーをしてみせた。

「では御機嫌よう。しばしの滞在ですので、王立学園に入学は不要ですわね」

 我ながら意地悪だと思いながらさっさと退出する。間際にレイ付きの侍女達に目配せして共に退出させる。八つ当たりされたら可哀想だわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る