第12話(12)11人の言い分と特徴〈アカリ〉

 我が国では聖女とは常乙女である必要はないし、神殿に常に居ることを求められない。

 よって第一王位継承者であるわたくしは、聖女として神々に認められたが神殿に留まる必要はない。

 平穏な世であるから、聖女の力は必要ではないし、聖女が必須でもない。王位継承の方が重要だ。


 聖女が婚姻を望んだ場合や王族に求められた場合、神殿を出て結婚することは推奨されている。相手は王族やそれに近いものに限定されるが。それは神聖力を持つ血を保つためだ。


 我が国は女性が王位継承権優位なのだ。

 わたくしは学園卒業後、ザイディーと婚姻を結び父である国王の補佐を務めることになっている。何年か研鑽を詰み、父王の後を継ぐ。

 現在独身である父王は、テミル女神の恩恵を受けにくいと言われているためだ。父王は身罷られた母以外を娶る気はない。


 父の代は女性王族に恵まれず、第一王子である父が王座に就いたわけだが、早く重責から解放されて母を偲ぶ隠居生活に入りたいと言う。

 しかし若輩のわたくし達をせめて10年は後見していただかなくては困る。


『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』の通りに事が進むとなれば、それは反逆とも言える。

 稀人の言でなければ、とうに投獄されてもおかしくない。受け取り方次第では、王や王族を退ける内乱とも言えるのだ。

 またひとつ悩みの種ができた。

 11人に齟齬を説明しなくてはならない。

 今日中に残り全員の個別面談を終えて、明日は全員を集めて一気に説明したい。


 アカリの元へ行くと、彼女はわたくしを見て一瞬ねめつけたが、すぐに萎れて哀れっぽく首を垂れたが座ったままだ。

 彼女は『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』を知っているはずだ。ならばわたくしが第一王女であることもわかっているはずだ。

 それなのに今まで面談した者達は誰一人礼を尽くさないのはなぜであろう?


「シャイロ第一王女です。お立ちになってご挨拶を」

 アカリに漬けた侍女が小さな声で促すと、なぜかアカリは俯いたまま一瞬笑った。いやな笑い方だった。


 アカリは立ち上がると哀れっぽく言い募った。


「あたしが気に入らないのはなぜですか?何もしていないのにひどいです」

 肩口に明るい赤褐色の髪がサラサラと揺れる。緑の目は涙が溜まっている。

 気に入らない?ええ、気に入りませんとも。知らなかったとは言え神殿予算が枯渇するほど散財させた一人ですもの。


「何を誤解されているのかわかりませんわ。さ、お寛ぎになって?甘いものはお好きでしょう?」

 アカリの涙など気にせず、次女に茶菓の用意をさせ、持ってきたミルフィーユをすすめる。

 あら、泣いていたのに食べるのね。

 案の定、ミルフィーユは無残に砕けて皿の外側にも欠片が飛び散る。ミルフィーユは食べ方にコツがあるのよ。だから今日はこれを選んで用意させたの。ナイフも出させていない。彼女達の言う「いやがらせ」だ。

 わたくしは決して優しい出来た人間ではないの。

 できればお菓子は孤児院や救民院に差し入れしたわ。

 このくらいの意地悪はいいでしょう?


 そのまま彼女に不満を語らせる。

 この娘もとにかく学園に行きたいと言う。

「では基礎学力をつけてマナーを学んでくださいませ。今は夏季休暇中なのです。早ければ来年の秋の入学に間に合いますわ」

 わたくしとしてはそれまでに返還させたいのですけれど。


 他には用意させた衣類が気に入らないので、元のものを返して欲しい。

 確かアカリの衣装は体にぴったり沿ったもので、太腿までスリットが入っていた。あのまま返すなどとんでもない。

 流行の型に直して返す旨を伝えると、不満そうな中で「流行の型」は抗えない魅力らしい。

 でも赤褐色の髪に、あの紫色は似合わないわ。針子達がどう仕立て直すのか興味がある。


 昨日の夜から、贅沢な食材を使用せず見た目は量があり一見凝った料理に見えるものを出しているので、そこの不満は出なかった。

 やれやれ。


「しばらくはわたくしが相談役を務めますので、なにかあればわたくしにお伝えくださいませね」

 言いおいて退出を告げるとアカリが食いつくように要求したのは、また殿方との面会だ。外にも出せと言う。

「面談は承諾できません。外出は侍女と護衛を伴って庭園のみになります。前もって希望をお出しくださいね」

 他の稀人の娘達と行き会うのを防ぐためだ。


「なんでよ!?あたしを閉じ込める気?」

「安全のためですわ」

 微笑んでアカリに近づき、口の横についたパイの欠片をナプキンで拭う。アカリは面喰った表情で固まる。

 その隙に「ごきげんよう」と退出した。

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