第10話(10)11人の言い分と特徴〈セイ〉

 わたくしの中で稀人への畏怖は消えた。

 孤児院を飢えさせた娘達にかける温情もない。


 すぐに稀人への予算を引き締めることにし、食事も満腹させる量は与えるが贅沢品を使うことは禁じた。

 神殿であつらえた衣類や小物は全て回収させ、検分した。


 それらを見て、苦々しい味が口に広がる思いだった。

 全て流行遅れだが、華美で豪華だ。大振りでキラキラした野暮ったいアクセサリー。こんなもののために孤児達は飢えたのか。


 翌日からわたくしは事務的に事を進める決意で北奥の離宮へ向かった。


 今日の一人目はセイだ。輝く滝のようにサラサラとした金髪に緑の瞳。

 昨日回収したドレスはみな、まるで肌着か夜着のように薄く袖もない。胸元は深く開いている。

 記憶を辿って体つきを思い出すが、鶏ガラのように全体的に平べったい細い体だった。これを着たら胸元にあばら骨ばかり目立つのでないだろうか。

 ともかくこのようなあられもないドレスで動き回れたら困る。


 セイの部屋に入ると、先触れしていたにもかかわらず出迎えもせずふて腐れた様子でソファに座っている。衣類はわたくし達が用意したものしかないので、淡いグリーンに首元のフリルに結んだ幅広の濃いグリーンのリボンが細い体の印象をふんわりと和らげている。


「わたくしは第一王女シャイロです。立って礼を尽くしなさい」

 セイはビクリとするが、すぐにねめつけて言い放った。


「私は聖女よ!王女よりも偉いのよ!」

 わたくしは躊躇も忖度も遠慮ももうしない。

「あなたは聖女ではありません」

 セイは怒気を露わにした。

「ウソ言ってんじゃないわよ!!神様が召喚したのよ!!なんでもかんでも邪魔する悪役令嬢が!!」

 王女です。言う気も失せたけれど。

「その神が告げました。聖女の資格なしと」

「あんたなんかの言うこと、誰も信じないんだから!!」

 その自信はどこからくるのだろう。ああ、そうだ。


「ところでお尋ねしたいことがあるのですが」

 セイはそっぽを向くがかまわず続けた。

「『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』についてご存じですか?」


 バッとセイの顔が上がり大きくて綺麗な緑の目が見開かれる。うっとりたした表情になりうわごとのように呟きが漏れ始めた。

「やっぱり…早く学園でオープニングを迎えなくては…私は聖女でザイディー様と国を…みんなのスチルを…」

 顔が赤く染まっている。どうしたことか。

「失礼。ザイディー様をなぜご存じなのですか?」

「そんなの!!」

 クワっと食いつくように前のめりになるセイ。

「全部プレイしたもの!この悪女!!あんたを成敗して隠しキャラのザイディー様を救って王妃に!」

 そこまで言ってセイは両手を口に当て黙り込んだ。


「とっ、とにかく!あんたに用はないわ!!私のアクセサリーとドレスを返して!これじゃ皆様に会えないわ」

 わたくしは堪えきれずにため息をつき、昨日3回も繰り返した文言を唱える。

「初対面の異性との面談は出来かねます。理由はあなたがはしたないと後ろ指を指されますし、お相手も面喰います。また面会の必要もありません」

 セイはさらに真っ赤になり掴みかからんばかりだ。

「なっ!なっ!なんですって!!」


 もう退出した方がお互いのためだろう。


「それから、申し上げることは3点でございます」

 待遇について、ドレスについて、学園について。事務的に告げて退出した。

 帰還については目途が立ってから告げよう。


 結局、『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』の情報はわからぬままだった。ああ、頭が痛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る