第3話 私のことは私で

 殿下に手を引かれ医務室へ連れてこられた私は先生を驚かせてしまったものの、すぐに先生は着替えを用意してくれた。

 その後に、怪我がないか診察してもらう。


「一体、あの場で何があったんだ」


 殿下は医務室へ連れてきてくれた後も、ずっと不機嫌なまま。


「私がぼーっとしてて。水替えをしていた水をかぶってしまいました」

「頭からかぶるほど、勢いよく外に水を捨てたということか?」

「はははは、そうみたいですね……」

「そんなの、わざとに決まっているだろうアンジュ」

「わざとかもしれませんし、手が滑っただけかもしれません……」

「アンジュは手か滑ったら、人が通るかもしれない廊下で勢いよく水を捨てるのか?」


 殿下に言われなくても、苦し紛れだってことくらい分かってる。

 でもこんな形で言えば、告げ口みたいだし嫌なのよ。


「それは……そうですが。でも、万が一ということもありますし……」

「アンジュ」


 下を向きボソボソ話す私に愛想を尽かしたのか、殿下は大きなため息をついた。

 わざとなのは、まぁ誰が見てもそうだろう。

 いくら面倒くさいからといって、あんな場所で水を捨てる人間などいない。

 ましてやその水をかぶった私を笑うなどあり得ない。


 やり返すなら、陛下の力なんて借りずに正々堂々としていたい。

 だってそうじゃなければ、私が私ではない気がするから。


「犯人が誰かは、もう分かっている。全ては俺のせいだ、アンジュ」

「私などに謝るなど、お辞めください殿下。私がいけないのです。子爵令嬢でしかない私が殿下の運命の番など、不相応なせいです」


 もしお友だちだったとしても、他の人から見たら私は身分が低すぎる。

 運命の番など不可抗力とはいえ、きっと他から見れば不満も多いのだろう。

 心のどこかで、いつかはこうなることも分かっていた。


 それでも私は私の目的のために、殿下に近づくことを辞めるわけにはいかなかったし。

 ある意味、私が決めた道。

 さすがに嫌味を言われることは今までも何度かあったけど、ここまでの実力行使は初めてね。


「そうではない。全ては俺が強固とした態度を示してこなかったせいだ」


 強固? 強固っていうのはどういう意味?

 今でさえ、十分運命の番だからと私のことを前面に押しているのに。


「えっと、あの……殿下? 殿下、待って下さい」


 しかし殿下は私の問いに答えることなく、医務室を飛び出して行く。

 ちょっと待って。さすがに強硬とかダメでしょう。

 

「待ってください殿下!」


 色とりどりの花が咲き誇る中庭で行われていたお茶会に乱入する殿下に追いつくのが、私には精一杯だった。




 

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