運命の番? そんなモンは知りません。この世界に白馬の王子様はいないようなので、私は喜んで退場させていただきます。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

第1話 運命の番に選ばれて

「ああ、こんなとこに隠れていたんだね。僕の運命のつがい

「えっ?」


 王宮の広間で踊る者たちをかき分け、王弟殿下であるアレン様が私に近づいてきた。

 今日は国王の生誕を祝う、年に一度の宮廷晩餐会。

 しがない子爵令嬢でしかない私も着飾って、この夜会に参加していた。


 いい縁を結べればと思っていたのだけど、まさかこんな形で殿下とお近づきになれるなんて思ってもみなかった。


「君の名前を教えて欲しい、愛おしい人よ」


 殿下は片膝を着き、私に手を差し伸べる。


「あの……アンジュ・ミリアムと申します、殿下」

「ああ、美しい僕のアンジュ。君に出会えたことを神に感謝するよ」


 周りからは感嘆とも言える大きな声が上がる。

 この国では番こそが運命であり、すべてだった。

 例えそれが既婚者であっても、番を見つけるとその愛情は全て番へと行ってしまう。


 そうこれは決して例外なく――


「そんな……アレン様……」


 殿下の後ろで、一人取り残された令嬢が一人呆然と立ち尽くしていた。

 何度かお顔だけは見たことがある。

 あのお方は殿下の婚約者である、公爵令嬢のティナ様。

 先ほどまで、確かに殿下と踊っておられたはず。


 いくら運命の番とはいえ、こんなこと……。

 ティナ様の絶望に満ちた顔を見ると、私はいたたまれなくなり口を開いた。


「ですが殿下、殿下には婚約者様がおられるではないですか。私は……」

「婚約者など関係ない。この国では番こそが全て。僕には君さえいればなにもいらないんだ! 愛しているよアンジュ」

「!」


 顔を真っ赤にしたティナ様が、背を向けて走り出す。


「ああ……」


 その背を追いかけたくても、声をかけたくても、今の私にはかける言葉など思いつかなかった。

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