IF・転生したら体長100m超の巨大生物で人類の敵でした。

同歩成

第1話 人類の敵?

 僕は何でもない休日を過ごしていた。

 忙しいながらも平穏な日々。

 平凡な僕だけれど、周りにも恵まれて、それなりに充実した生活を送っていた。


 あるとき、そんな日常を打ち破るように、巨大な地震が発生した。


 ズドオォォン! ゴッゴガガァァァ! ドガガガガッ!


 立っていることができないほどの大きな揺れだ。


 僕は慌てて避難所へと向かう。

 その途中、近所に住む愛想の良い母娘を庇った僕は、瓦礫の下敷きになり、そのまま意識を失った。



 ◇◇◇



 どれくらいの時間が経ったのだろう。

 完全に死んだと思ったのだが、ぼんやりと意識が戻ってきた。


 僕は現状を把握しようと周りを見渡すが、薄暗くてよく分からない。


 ここは一体どこだろう?


 何の気なしに呼吸をすると、


 ゴボッ! ゴボボッ!


 僕は大量の水を吸い込んだ。


 もしかして水中なのか!?


 しかし息苦しさは感じない。


 水中なのに息ができる?

 どういうことだ?


 僕は動揺しながらも浮上して、水面に顔を出す。


 ザッバアァァァァァッッ!!


 大きく水面が盛り上がり、大量の水しぶきが舞い上がる。

 さらには水面に、ちょっとした渦までできている。


 なんだこのスケール感は!?

 これは人間のサイズではない!

 巨大な何かになっている!


 僕は自分の姿を可能な限り確認する。


 黒っぽくゴツゴツとした表皮、小さく短い腕。

 下半身は水中のため見えないが、相当にどっしりとした足腰だ。

 さらにお尻付近に何とも言えない違和感がある。

 どうやら尻尾が生えている。しかも二本。


 うん、この姿は確実に人間ではない。

 はっきりとは分からないが、恐竜のような巨大な生物。

 僕は謎の巨大生物になってしまった。


 謎の巨大生物になった僕。

 当たり前だが、途方にくれた。


 そして、たぶんここは海。

 僕は今、果てしなく広い海の真ん中に、ただ一人で浮いている。


 この状況で、僕は一体どうすれば良い?

 考えたところでさっぱり分からないし、不安しかない。


 ただ命の危険は感じなかった。

 この巨大な身体。

 自分の身体から感じる強大な力。

 それだけが救いだった。


 そうして僕は途方にくれながら、数日間、海上を漂った。


 そのうちに僕は空腹を感じる。

 食事はどうしたら良いのだろうか。


 僕は躊躇しながらも、海中で発見した巨大ダコを襲って食べてみた。

 僕としては調理したいという気持ちはあったが、背に腹はかえられない。仕方なくそのまま食べてみたら、フワフワ食感で美味かった。


 これならば食事には困ることは無さそうだ。ひとまず生活していくことはできるだろう。



 ◇◇◇



 さらに数日が経過した。

 その頃、僕は巨大生物の姿になった自分のことを、徐々に受け入れていた。

 生活に慣れてきたのか、巨大生物の本能と同化しているのか、無限とも思えた不安が少しずつ減っている。


 僕は前向きに考えることができるようになってきた。

 こうなった以上は、巨大生物として平和に暮らそう。

 今は一人ぼっちで寂しいけれど、僕の同種はいるのだろうか。もしも仲間がいるのなら会ってみたいな。


 僕はこの世界のことを調査しつつ、巨大生物としてスローライフを目指すことにした。

 それにはやはり拠点が欲しい。


 海中だけでも生活はできそうだけれど、やはり僕は人間だ。

 いつも暗い海の底にいたのでは気が滅入ってしまう。明るい陸上でも生活したい。


 どこかにスローライフに適した島でもないものだろうか。

 僕はそう思って、さっそく周辺を探索する。すると小さな島を発見した。


 その島には、白い毛がモフモフと生えた毛むくじゃらの巨大生物が住んでいた。僕が見る限り、その他に目立った生物はいなかった。

 なんとも平和そうな無人島だ。


 そこで僕は、ふと疑問に思う。

 上陸しようと思ったものの、そもそも僕は歩けるのだろうか。


 僕は恐る恐る無人島に上陸を試みる。

 この姿になって初めての陸上だ。


 ズシィィィンッ! ズシィィィンッ!


 うん、歩ける!


 良かった、どうやら普通に歩けるようだ。

 ただし普通と言っても、ど迫力。

 無人島なので問題はないが、市街地ならば大惨事になることだろう。


 僕は一歩一歩と大地を踏み締める。

 二足歩行だ。


 これは嬉しい。

 人間だった僕なので、二足歩行はやはり馴染む。

 歩く速度は遅いけれど、急ぐ必要はないので問題はない。


 僕は上機嫌で無人島を散策する。


 さて、こんなにも巨大な僕が島を散策している。

 周囲にいるモフモフたちはどうするだろうか。やはり怖くて逃げられてしまうかな。


 僕は興味深く周囲のモフモフを観察してみる。

 だがモフモフは全く逃げない。それどころか元気に近寄ってくる。


 か、可愛い。

 なんだこの可愛いらしい巨大生物は!


 僕はこの世界に来て初めて癒された。

 可愛いモフモフが住むこの島を拠点にしよう。即決だ。


 僕はモフモフが住む島を中心に周辺海域の調査を開始した。

 巨大ダコ、巨大イカ、巨大エビなどが生息していて、食べてみるとどれも美味しい。


 それから僕は二本ある尻尾の先から炎が出ることに気がついた。

 尻尾がムズムズするので力を込めたら業火が出た。


 えっ、なにこれ? 怖っ!


 最初は加減が分からず、尋常ではない業火が出て驚いた。


 そうして最初は驚いたけれど、尻尾の先から出る炎は便利だった。

 尻尾の先から出る炎の主な利用方法は調理。


 食材を焼いて食べると美味しいし、人間っぽい気がしてホッとする。

 美味しい食事をした感想を誰かに伝えられたら、もっと幸せな気持ちになれるのだけれど。



 ◇◇◇



 それからどのくらいの日数が経ったのだろう。

 あるとき僕は海上に豪華客船を発見した。かなりの遠方だったが、僕の視力はものすごく良いので見間違いはない。


 豪華客船が航行していると言うことは、この世界にも人類がいるのだろう。豪華客船を製造し、優雅な旅を楽しむほど文化の進んだ人類が。


 それほど文化の進んだ人類がいるのなら、意思の疎通ができるかも。

 ジェスチャーや鳴き声で僕なりに意思を伝えてみるのもアリかもしれない。

 ずっと一人ぼっちで寂しかった僕は嬉しくなった。


 人類との共存。


 これを僕の目標にしよう。

 僕が人類の役に立つことがあるかもしれないし、人類が僕を助けてくれることがあるかもしれない。


 人類と共存しながらのスローライフ。

 今の姿形は巨大生物でも、僕はもともと人間なのだ。

 きっとできる。


 僕はそれから人間の住む大陸を探索し、発見した。

 そして人類に対して、顔見せをする。


『ゴッゴグアァァァン』


 僕は雄叫びをあげる。

 これは挨拶『こんにちは』のつもり。


 やはりコミニュケーションの基本は挨拶だろう。

 さらに僕は愛想良く尻尾を振ってアピールをする。


 反応はどうだろうか?


 人類からの反応は……普通に砲撃された。

 それはそう、急に巨大生物が近寄ってきたら怖いよね。


 だけど僕は人類の敵ではない。

 姿形は違っても僕は人間なのだから。


 それからの僕は数日に一度ほど顔見せをし、挨拶をした。

 人類からの返事はいつも砲撃。


 砲撃を受けるのは、巨大生物といえども恐怖を感じる。

 殺意を向けられているのだから当然だ。


 なので僕は適当なところで切り上げて、逃げるように撤収する。

 僕はそれを何日も何日も気長に続けた。


 そんなある日のことだった。


 僕は挨拶に行った翌日、拠点としたモフモフの住む島で、のんびりと尻尾の炎を使ったバーベキューを楽しんでいた。

 巨大イカ焼き美味いなー、レモンサワーが欲しいなーと思っていたとき、僕は上空に航空機を発見した。


 それも一機ではない。

 数十機はいるであろう大編隊だ。


 帰り道を追跡されてしまったのだろう。

 とても嫌な予感がする。


 周囲を見まわすと、上空だけではなかった。

 海上には大艦隊が迫っていた。

 僕は完全に包囲されていた。


 これはマズイ。すぐ逃げないと!


 しかし僕は陸上での動きがとても緩慢だ。

 海中へ脱出する間もなく、上空を舞う航空機から爆撃された。


 ドガァァァァ! ドガァァァァ!


 痛い。

 とても痛い。


 ドガァァァァ! ドガァァァァ!


 僕は容赦なく爆撃される。

 ヨロヨロしながらも海中へ脱出しようと試みるが、それを阻むように軍艦から砲撃される。


 ドガアァァァァァン! ドガアァァァァァン!


 さらにはミサイルが飛んできた。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 何発ものミサイルが僕を襲う。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 痛い! 痛い!

 このミサイル攻撃はマジで死ぬかも。

 それは嫌だ、怖すぎる。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 ミサイル攻撃が止む気配はない。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 ミサイル攻撃は止まらない。

 一体いつまで続くんだ、このミサイル攻撃。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 この攻撃は完全に僕を殺しにきている。

 それも当たり前か、今の僕は正体不明の巨大生物なのだから。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 人類の殺意が一人の僕へと集中している。


 周囲を見ると、島の至るところに逃げ遅れたモフモフたちが真っ黒に焦げて倒れている。可哀想に。

 僕もモフモフたちも人間に何も危害を加えてはいないだろう。

 それなのに一方的に攻撃してきやがって。


 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!

 ズドオオォォォォン! ズドオオォォォォン!


 ミサイル攻撃は激しさを増す。


 そうか、もう分かったよ。

 殺しにきてるってことは、当然やり返してもいいんだよね。

 反撃される覚悟があるから攻撃しているんだよね。


 僕が完全にキレた頃、執拗に続いていた攻撃がようやく止んだ。

 ダメージの確認なのか、次の攻撃への準備なのか、とにかく攻撃が止んでいる。


 僕は人類と仲良くしたいと思ったが、人類からの返事はこれだった。

 僕を追跡してまで、全力で殺そうと攻撃してきた。


 それならば仕方ない。

 殺される前に殺す。

 僕の生きる道は、それしかない。


 僕は攻撃が止んだ隙に海中へと脱出する。


 僕を止めるものは誰もいない。


 僕は大艦隊の直下に潜り込む。

 そこから一気に浮上して軍艦の艦底に体当たりを敢行する。


 ズガァァァァッッ!


 僕の体当たりによって軍艦は簡単に折れ曲がり、炎上する。


 軍艦は同士討ちを恐れて、僕に対して反撃できない。

 キレている僕は一方的に攻撃をした。


 ズガァァァァッッ!

 ズガァァァァッッ!


 僕は軍艦に体当たりを続け、次々と大破、炎上させる。

 炎上する軍艦に多くの人間が見える。


 僕はそれを無視して全ての軍艦を大破させた。

 もうこの艦隊に僕を殺す力はないだろう。


 その変わりに、海上は火の海だ。

 一体どれほどの人間が死んだのだろうか。


 僕はこのとき、完全に人類の敵となった。








 ◇◇◇


 お読み頂き誠にありがとうございます。

 第二話へ続きます。よろしければフォローして頂けると幸いです。



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