永遠の恋
愛菜
第1話「出会い」
〜プロローグ〜
十数年前の追憶。鮮やかによみがえってくるその色彩を帯びた温かい思い出が、小春にはひとつあった。
その思い出は、心に複雑な気持ちを抱かせる。ふと、その記憶に浸ってしまうことがあった。今夜もそんな夜だった。
小春はワイングラスを傾けひと口飲み、その思い出に身を寄せた。赤ワインの苦みが、その記憶の断片と混ざり合った。
小春はテーブルに、肩肘をついて、うっすらと目を閉じた。部屋に流れている音楽は、ビートルズの『サージェント・ペッパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』。繊細でメロディアスな音楽が、脳裏に広がった。と、同時に、あのときの記憶も染み渡っていった。
もう二度と戻れなくても、今はただあなた、あなたのことばかり…。
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小春が蓮と初めて喋ったのは中学二年生のときだった。蓮が偶然、小春のクラスまで教科書を借りにきたのだ。
「社会の教科書誰かかしてくんない?」蓮が教卓のところで呼びかけた。あいにく、社会はその日の授業にはなかった。
すると、小春の友人である薫は明るい声で言った。「小春置き勉してるから持ってたよね」
蓮はゆっくりと小春の元まで歩み寄った。
「青木小春さんって小学校のとき、暗かった子でしょ?」
口を開いた瞬間、初めて口を利く小春に予想することのできない発言だった。全く悪気なく蓮は話しかけたのだ。表情には微笑が浮かび上がっていた。対照的に小春は蓮の言葉にとまどったと共に少し苛立ちを覚えた。
「これ使ってね」
小春はすぐさま蓮に教科書を差し出した。この場と雰囲気を早く脱したかったのだ。小春は教科書を渡し、蓮から離れた。
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一時間後の出来事だった。
「青木さん、教科書ありがとう。助かったよ、はい」と、蓮は教科書を小春に渡し、足早に去っていった。
小春はそれを受け取った。
とても爽やかに返しに来たのだった。
(何よ、アイツ)
小春の心境は複雑だった。蓮の性格を図りかねた。
噂には聞いてたけどあんな失礼な人だとは思わなかった。
蓮についての噂は同じテニス部の静香から聞いていた。
静香が蓮に告白したのだが、蓮は一日保留したのだった。魅力的で溌剌としモテる蓮に対し、容姿が普通の女の子よりいささか劣り、ぽっちゃりとしている静香と付き合うとは思えなかった。
そんな静香からの告白に「俺、一日真剣に考えるわ」と言ったようだ。
その日の静香は心の底から嬉しそうだった。
「蓮くん一日考えてくれるって!」
すぐに断るのも男の子の優しさだろう、と小春はいぶかしく思った。
案の定次の日蓮は静香を振った様子だった。予想通りだった。
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(なんなのよ 永瀬蓮って)
教科書を借りにきたあの日から蓮のことを意識していた。
季節は巡って中学3年生の4月。 桜の花びらが舞い、秒速5センチメートルで散っていく。透明で清潔な春の穏やかな風たちが吹き過ぎていた。
クラス発表の紙に目を向ける。
青木 小春
永瀬 蓮
(うわ、最悪だ。永瀬蓮と一緒だ。
あ、薫も静香も一緒だ!)
「小春、今年も一緒じゃん!よろしくね」と、薫が満面の笑みで口を開いた。
「うん。薫も静香もよろしく」小春は笑顔で返した。
「ラッキー!また蓮くんと一緒だよ」と静香は小春とは対照的に嬉しそうだった。
「みたいだね…」小春は少しだけ苦笑いをした。
これから始まる一年間、期待と不安が絶妙なバランスで入り混じる。
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