第161話 支える力となる

「お待たせしました」


レイジブルのステーキに続き、アヒージョとベーコンピザも提供。


リーチェとマルティーはカクテルの味を楽しみながらも、目の前の夕食に意識を奪われる。


「っ、っ、……ふぅ~~~。本当に、あの値段で良いのかと、思ってしまいますね」


「だね~~! アスト君だからこそ、設定できる値段よね!!」


カクテルだけではなく、料理だけでもミーティアに来る価値がある。

そう思われるのは……決して嫌いではないアスト。


「それで、先程の話だけど……肉体言語での交流で、彼らは良い意味で成長出来そうなのかしら」


「そうですね…………自分で言うのもあれですが、この機会を糧に出来なければ、彼らはこれ以上成長は出来ないでしょう」


ヴァーニの好意によって、アラックたちは理不尽……もしくは理解不能と呼べる存在と出会えた。


モンスター以外にそういった存在と出会える機会は少なく、人生の中でそう何度も遭遇することは出来ない。

付け加えるならば、良い意味で……流れで出会うことも難しい。


「私は冒険者じゃないからあれだけど、やっぱりそんなに跳ね返っちゃうものなの?」


「…………彼らは、強さとプライドが直結しています。今回、彼らが私に対して負の感情を向けるのには理由がありますが、一番大きな要因があるとすれば、そのプライドを傷付けられたからでしょう」


「プライドね~~~……こんな事、副業で冒険者活動をしてくれてるアスト君に訊くのもあれだけど、プライドってそんなに大事なの?」


マルティーは、自分が日々行っている受付嬢の仕事に対して……特に誇りはない。

仕事の能力に関してもプライドはなく、なんとなく自分に合っている、給金も良いからという理由でクビにならないようにヒビ頑張っている。


だからこそ、プライドというものがそんなに大事なのかと、受付嬢という仕事に就いてから何度も感じていた。


「そうですね……これは個人的な考えですが、真剣に強くなろうと研鑽を重ね続け、真摯に取り組んできた者ほど、追い詰められた時に……自身を奮い立たせてくれる力になるかと」


「それは、自信とは違うの?」


「自信、というよりは信念でしょうか。例えば…………非常にナルシストな方がいたとします。戦いに美しさを求め、自身にも常に美しさを求める」


マルティーは割と俗なタイプであり、面食いよりなところはあるが、アストの例えを聞いて少し渋い表情を浮かべた。


リーチェは表情こそ変わらずステーキを口に運んでいるが、例に挙げられた冒険者の様な存在がいた場合……冷たい視線を向ける自信しかなかった。


「そんな人物にとって、窮地に追い詰められた状態で仲間を切り捨て、逃げることは果たして美しいと思えるでしょうか」


「普段なら、思わないって答えそうね」


「偽物であれば、そこで化けの皮が剝がれるでしょう。しかし、本物は窮地に追い詰められたとしても、自身の信念を曲げずに捨てません」


「真剣に強くなろうと研鑽を重ね続け、真摯に取り組んできたから……ですね」


「えぇ、そうです」


リーチェの言葉にアストは営業スマイルに……ほんの少し本心を零し、応えた。


「だからこそ、私はプライドというのは、本当の意味で強くなりたいのであれば……憧れに近づきたいのであれば、重要な要素だと思います」


「な~~~るほどぉ~~~…………それじゃあ、アスト君から見てそういうプライドを持ってそうな子はいたの?」


「現時点でですと……………………エイモンさんが、そうかもしれませんね」


「「?」」


マルティーもエイモンの事は多少知っているため、リーチェと共に思わず首を傾げる。


「あの人が? 私はあんまりそういうのを持ってるタイプには思えないけど」


「彼は、現時点で狭い視界に囚われておらず、変化を拒んでいません。幼い言葉になってしまいますが、彼は良い意味で純真さを持っています」


「……プライドに、形はないということね」


「個人的な解釈ではありますが、リーチェさんのおっしゃる通りです」


偏見がある者からすれば、プライドがある者は傲慢な思考を持っていると捉えられてしまうことがある。


「ふ~~~~ん。なら、他の四人はあんまり見込みはない感じなの?」


「………………そういう訳ではありません。ただ、今は視野が狭くなっています。私としましては、その視野が改善されない限り……本物のプライドではなく、自身の可能性を潰してしまう無駄なプライドが身に付いてしまいます」


「……これから、そこをどうにか出来そうですか」


「出来る限り、どうにかしようとは思っています。物理的な力と、言葉を使って、彼らの視界を広げます。しかし、最終的には彼らが現実を受け入れるか否か……彼等の心に掛かっています」


アストの言葉を聞いて、最終的には人任せなのかと……リーチェとマルティーは特に失望することはなかった。


先輩たちは、後輩に何かを教え、道を示すことは出来る。

だが、そこまでしか出来ない。


その教えから何を思い、示された道に対してどう行動するかは……本人次第である。

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