第141話 らしい失敗
「……アストにとっては迷惑な話かもしれないが、国から騎士の爵位を授かることになるのではないか?」
塩味のポテチを摘まみながら、ふと頭の中に浮かんだ考えを口にしたモルン。
「騎士の爵位を、ですか………………こう言ってしまうのは失礼なのは解かっていますが、物凄く有難迷惑ですね」
「ふっふっふ。アストらしい回答だな」
冒険者として活動している者であっても、貴族から個人的にうちの騎士にならないかと誘われる……勧誘されることはある。
実際のところ、アストも過去に経験があったが、粗野な冒険者なのでと断っていた。
ただ、騎士の爵位を授かってしまうと、本格的に貴族たちからすれば、勧誘しない理由がなくなる。
アストにとて、それだけは勘弁してほしかった。
「…………でも、アストの活躍は、本当に凄い。騎士団の人たちだけじゃんく、多くの命を、救った」
「ケリィーの言う通りね~~。翼を持ち、土竜とは思えない速さを持ちながら、土竜に相応しい堅さを持っているAランクの土竜亜種に、敗走という屈辱を越え、戦いの鬼と化した大剣使いの戦凶鬼…………最悪の竜鬼士? ってところかしら」
「軽々しく言うことではないが……中堅都市であれば、一日で潰されるであろう」
モルンたちはまだAランクモンスターと対面したことはないが、それでも災害が形をしたような存在だと、実際に遭遇し……戦った事がある先輩冒険者から聞いたことがあった。
災害が二つ。
今回はモンスター側からしても災害が複数いたため、バラバラで行動したが、最悪の場合……二つの災害が一つの災害となり、人類を滅ぼそうと動いたかもしれない。
「そういうのを考えると、やっぱり命を懸けて挑んだアストには……騎士の爵位が授与されても、おかしくなさそうね~~~」
「私としては、出来ることをしただけですので」
「そういう精神こそ、騎士にピッタリって感じじゃない」
「………………」
完全に逃げ道を塞がれてしまった。
フィラはどこぞの貴族から前金を受け取り、アストをその気にさせてほしいという依頼を受けているわけでなく、ただ単純にアストをからかっていた。
だが、アストからすれば、本当にそれ以上の気持ちがないため、逃げ道を塞がれたように感じた。
「……私も人間です。失敗の一つや二つ、起こしてしまいますので」
「人間、誰しもそんなものでしょ。でも、アストの失敗の一つや二つって言うのは、ちょっと気になるわね」
フィラの言葉に、他三人は揃って首を縦に振った。
「そうですね…………冒険者らしい失敗と言えば、冒険者らしい失敗ですよ」
「冒険者らしい失敗~~~~???」
パーラは本気で首を捻り、なんだそれはという顔になる。
目の前のバーテンダーは、本業はバーテンダーである。
先程作ってもらったアレキサンダーは本当に美味く、アルコールの重さを感じさせながらも、飲みやすいと思えた。
だが、副業が冒険者であるのも事実。
先日の激闘に、冒険者であるからこそアストは参加したのだ。
ただ……パーラたちから見て、アストは冒険者の面を持つものの、粗野で野蛮……そういった冒険者のよろしくない面を感じさせる男には全く見えない。
パーラだけではなく、フィラたちも本当にアストが冒険者らしい失敗をやらかしてしまうとは思えず、考え込むこと約数分……パーラがこれかもしれないという内容に辿り着いた。
「あのさ、あのさ! もしかして、朝起きたら知らない女が横にいたとか!?」
「お恥ずかしい話、知らない女性ではありませんでしたが、気付いたら……という事はありました」
確かに、冒険者らしいと言えば冒険者らしい失敗……やらかしと言える。
しかし、パーラたちからすれば、やはりアストには似合わないやらかしの様に思えた。
「冒険者らしくはあるけど、本当に珍しいわね。ん~~~~~……相手が誰か気になるわね」
フィラは安易に訊こうとはせず、どういった人物なのか考え始めた。
(そういった事があったと言うだけで、自慢気に語らない……アストの性格を考えれば、そういう事を自慢げに語りはしなさそうね…………でも、多分誰かなのかは、絶対秘密にしたいって感じね)
見知らぬ相手ではないが、気付いた時にはベッドの上で互いに裸になっていた。
となれば、まず大前提にアストがこの女性であれば、致しても構わないと思える相手、という情報まで絞れる。
「ねぇねぇ、アストはどういった女なら、ベッドインしちゃっても良いって思うの」
完全に酒場のノリで尋ねるパーラに対し、アストはどう答えれば良いか、珍しく迷っていた。
「そうですね…………正直なところ、本能が決めてると思います」
多少の好みはあれど、イシュドはこれまで致してきた相手をザっと思い返すが、特にショートヘア、ロングヘアー、貧乳、巨乳、爆乳、人族、エルフ、ハーフドワーフ、鬼人族等といった指針はなかった。
「あぁ~~、それはちょっと解るかも!」
獣人族であるパーラは、獣人族の特徴としてそういった部分があるため、本能的にこの相手となら致しても良いかもと思う感覚が割と理解出来た。
その後も呑んで食べて話すも、フィラたちは一応頭の中でアストがうっかりベッドインしてしまった相手に関して考え続けるも、これで確定!!! と、一人には絞れなかった。
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