第134話 執着を捨てて
(クソっ……こいつ、本当に堅いな)
当初は戦況を優位に進められていたアストたちだが、Aランクのドラゴンというのは、圧や敵意を向けられるだけで精神が削られていく。
本来であれば十分以上、上手く動ければ数十分は戦い続けられる。
だが、Aランクの土竜、リブルアーランドドラゴンが放つ圧にアストを含め、精神ががりがりと削られており、予想以上に早いペースで体力も同時に削られていた。
(やはり、名刀か大斧を、使う、べきか)
アストにはまだ、切り札がある。
しかし……Aランクのドラゴンはただ戦闘力が高いだけではなく、個体差はあれど他のモンスターよりも高い知能を持っている。
(でも、使えば、真っ先に俺を、削りに来る)
爪撃や地面からいきなり生えてくる岩槍を躱しながら、アストは切り札を使った際に……もし、ミスをして致命傷を与えられなかった時のことを想像すると……中々意を決して使えなかった。
戦闘で死ぬことがある。
それを承知で冒険者として行動しており、今回の討伐戦にも参加した。
勿論、その覚悟はある。
だが……結果として無意味に死ぬのだけは避けたかった。
(誰かに、大斧を渡して、俺はアレキサンダーを、使うか? 名刀はあれ、だが……大斧なら……)
当然、カクテルのスキルも使うべきタイミングで伝えたいとは考えている。
ただ、どう考えても大勢の相手、そして相手がAランクの土竜という事も含めて、ブレイブ・ブルは使用できない。
せっかく即席とはいえ、上手くいっている連携を崩す訳にはいかない、
そして仮に使用して身体能力を大幅に上げたところで、絶対に討伐出来る保証はない……というより、討伐出来る自信がなかった。
大型の武器が使える女性騎士に超高ランクの大斧を私、アレキサンダーを使用して数秒ほど動きを止めるという案も浮かびはしたが、どれだけイメージしても……成功割合が五割を越えない。
冒険者として活動していれば、イチかバチかの賭けに出ないといけない時があるというのは、重々承知している。
承知しているが……それでも、今回は圧倒的な脅威がAランクの土竜ではなく、もう一体のAランクモンスター、戦凶鬼がいる。
アリステアの強さは信頼しているが、それでもアリステアなら絶対に勝てると断言出来るほど、温い相手ではない。
それらの理由もあり、五割を越えない賭けには出られなかった。
(クソッ!!!! こっから、先。戦況を有利に、進めるには、まずどちらかを、倒さなきゃいけない、っていうのに!!!)
まだ戦凶鬼を倒せないアリステアに悪態を突きたい訳ではない。
寧ろ、Aランクモンスターという災害が形をした怪物を一人で対応させてしまってることに、申し訳なさすら感じる。
「ぐっ!!!!!!!???????」
次の瞬間、リブルアーランドドラゴンの爪撃を受け流すタイミングが遅れ、タンクの役割を担っていた女性騎士が吹き飛ばされた。
(……考えてる、場合かッ!!!!!!!!!!)
疲労が積み重なり、受け流すタイミングが遅れたものの、しっかり盾は挟んでいた。
それでも、吹き飛ばされたことで何度も木々に激突。
最悪の場合も考えられる。
そう思った瞬間、アストは生へ執着を捨て去った。
「神意を宿す息吹よ、何の為に背を押す」
「っ!!!」
「怯むなあああああ!!!! 攻め続けるんだああああああああッ!!!!!」
アストに、何かを感じ取った土竜。
同じく、全く聞いたことがない詠唱を始めたアストに、希望を見い出したウェディー。
「全ては汝の意の為。良き隣人の、友人の、血の繋がる者たちの守護者となるため、後ろを振り返らず」
アスト自身、自分に対して明確に意識を向け始めた土竜の攻撃を食らわないため、全力で動き回る。
「ハァアアアアアアアアッ!!!!」
「セヤッ!!!!!!」
「ストーム……ハザークランスッ!!!!!!!!」
「ッ!!!!!!!!」
ここが正念場、運命の分かれ道だと判断した彼女たちの判断も早く、最低限の回避と受け流しだけを頭の片隅に置き、他の意識は全て攻撃へ向けた。
「我、眩き閃光となりて、撃鉄を落す……カミカゼ」
詠唱が……完了した。
次の瞬間には、まだ飛来する攻撃を全て無視しリブルアーランドドラゴンはブレスの
準備に入った。
自分の攻撃の中で、これが一番強いという自信がある攻撃。
その攻撃を放とうとしたのは、考えた訳ではなく、本能だった。
結果として、共に攻めようとした戦凶鬼に当たってしまっても構わない。
「居合・雷閃」
一振りの……斬撃刃が放たれた。
数秒後、渾身のブレスを放とうとしたリブルアーランドドラゴンは失敗。
性格には、放つ前に…………体を切断されてしまった。
土竜だけではなく、周辺の……奥の木々までも全て斬り裂かれていった。
「ッ、ッ…………」
回復力の高い土竜ではあるが、体の一部だけではなく、体そのものを真っ二つに切断されては……回復もクソもなかった。
「ふぅーーーーー……っ!!!!!!!」
名刀を鞘に納めた直後、アストを口から血を吐出し、その場に倒れ込んだ。
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